トヨタの想定値を検証
では、トヨタが30年に想定する350万台のEVというのは、世界的にみて多いのだろうか、それとも少ないのか。そのために世界の代表的な国の2030年におけるEVの販売義務台数を見てみよう。
世界第2位の自動車販売国の米国は、30年までに新車販売の50%以上をEVとFCEVとする。主力はEVなのでほぼ販売台数の半分をEVにするということになる。現在の販売台数はおよそ1700万台なので、850万台のEVである。大変な数だ。
一方、ジェトロの調査によると、トヨタの19年における米国の販売台数はおよそ240万台であった。これで類推すると30年には120万台のEVを販売する必要がある。ただし、トヨタ傘下のスバル(70万台)もマツダ(28万台)もトヨタからのOEMでEVを販売すると、2019年ではトヨタとの合計で販売台数は340万台となり、うちEVの販売台数は170万台となる。
1台当たり70キロワット時のリチウムイオン電池を搭載すると、計120メガワット時の容量が必要になる。トヨタが米国ノースカロライナ州に建設予定の電池工場では、当初80万台分の、さらに拡張されて120万台分のEV電池が生産される予定だが、さらなる拡張が必要だ。
世界一の販売台数の中国ではどうか。トヨタの19年の販売台数はおよそ160万台である。中国は35年にEV比率を50%にする。30年も同数とすると160万台の半分の80万台のEVの販売となる。マツダがOEMで販売する22万台の半分の11万台を上乗せすると91万台だ。
欧州ではどうか。EUは35年にHEVを含めてエンジン車の販売を禁止する。欧州の自動車メーカーの大半は30年EVシフトを掲げているので、実際は30年に新車は全面的にEVになるだろう。トヨタの19年の販売台数はおよそ77万台である。EVも77万台と考えなければならないだろう。さらにマツダの25万台を上乗せすると102万台となる。
日本で売るEVが残らない?
私の計算では、30年には米国で170万台、中国で91万台、欧州で102万台。計363万台のEVを、トヨタは世界で生産・販売しなければならない。おおよその計算なので誤差も大きいが、30年にEVの生産台数が350万台というのは、上記の3カ国・地域でほぼいっぱいである。けっして多くはない。そうなると、自動車販売台数160万台の日本で売るEVは残っていない。
ここは160万台の50%の80万台とはいわないが、少なからぬ台数のEVを日本でぜひ売ってほしいところだ。搭載できる量のリチウムイオン電池を生産できる工場を建設して、日本市場にも十分な量のEVを供給してほしい。