和歌山、長崎は厳しい情勢
政府は21年10月から22年4月までIRの区域整備計画の申請を受け付ける。最大3カ所が選ばれる見通しだが、現在、申請準備を進めているのは大阪府・市、和歌山県、長崎県の3地域のみ。本命視された横浜市は撤退し、東京都は検討作業を休止しており、誘致合戦は盛り上がりを欠く。
和歌山県はカナダのクレアベスト・グループを事業者とし、和歌山市の人口島・和歌山マリーナシティへの誘致を目指している。施設の名称は「The PACIFIC」とし、米カジノ大手シーザーズ・エンターテインメントが運営するカジノ施設のほか、1万2000人収容の国際会議場、計2638室の宿泊施設などを備え、27年秋ごろに開業する計画だ。
初期投資は4700億円。年間来場者約1300万人を見込む。和歌山県に入る入場料・納付金の見込み額は、開業後5年間で入場料が計600億円、納付金が1100億円と想定。ギャンブル依存症への対策費に充てる。和歌山IRは大阪のそれと完全に競合する。「関西にカジノは2つも必要ない」(関係者)ことから、誘致の見通しはかなり厳しい。
長崎県は佐世保市のリゾート施設ハウステンボスへの誘致を目指してきた。IRの設置運営予定者としてオーストリアの国有企業カジノ・オーストリア・インターナショナルの日本法人(CAIJ)を選定。初期投資額で3500億円、年間来場者840万人を見込む。初期投資費用はCAIJ側が全額用意する。コンソーシアム(共同事業体)を形成して資金を供出することにしているが、パートナー企業のなかに数百億円を捻出できるような大企業は見当たらない。初期投資3500億円の資金調達のめどがたっていないと報じられている。
IRの旗振り役だった菅義偉前首相のお膝元でもあり、本命視されてきた横浜市が、反対派の山中竹春市長の誕生で一転して撤退を決めた。誘致活動を進めるのが西日本の3地域のみとなり、政府の判断に影響を及ぼすことになりそうだ。
さらに、猛威を振るう新型コロナウイルスがIR環境を一変させた。コロナ以前につくられた大規模集客施設の青写真や経済効果を見直すことなく突き進めば、IR施設は巨大な“廃墟”になる恐れさえ出てきた。バブル時代に相次いで建設されたリゾート施設に閑古鳥が鳴いたのと同じ轍を踏むことになるからだ。
withコロナ時代にIRが必要不可欠な施設なのかどうかを十分に吟味しないと「令和の時代の戦艦大和をつくることになる」(関係者)。
(文=編集部)