ビジネスジャーナル > マネーニュース > SMBC日興証券相場操縦疑惑、元社員が語る  > 2ページ目
NEW

SMBC日興証券相場操縦疑惑はどこが問題なのか? 元社員がその「落とし穴」を解説

中沢隆太

今回の問題点「売却する大株主側の利益のみを保護する行為」


 現段階では、詳細について明らかになっていないため、あくまで推測という形になるが、今回の問題について考察していきたい。

 まず先述の通り、売買価格は大株主が設定した日の終値を基準に算定される。この金額が、大株主が取引を持ち掛けた時点の株価に比べて大幅に下落していた場合、大株主が売却することに難色を示し、売買が成立しなくなる可能性が生じてしまう。そうしたことでの破談を回避するため、証券会社社員らは売却時点の株価を維持すべく、買い支える注文を繰り返していたのではないかという疑いが生じているわけだ。

 また、ニュース等では株価の買い支えは株価操縦で問題だという雰囲気になっているが、内容を深掘りしてみると、本件は相場操縦ではなく、安定操作取引違反に該当するのではないかと思われる。

 相場操縦とは取引を誘引する目的で、「有価証券売買等が繁盛であると誤解させ、(略)相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をすること」(金融商品取引法第159条第2項より)。

 安定操作取引とは、金融商品取引法(第159条第3項)上、有価証券の「相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって」する一連の有価証券売買等とされており、法令を遵守し申告されたものを除き、相場操縦行為の一類型として禁止されている。

 本件はどちらかというと大株主との取引が消滅してしまうことを防ぐために、「相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって」売却時点の株価を意図的に維持しようと、市場での取引を繰り返し、株価の買い支えを図ったものとなるのではないだろうか。

 この安定操作取引は、株価操縦であり市場の公平性を大きく歪めるため、許されるものではないという論調を多く目にするが、実はPO(公募増資等)やIPO(新規上場株)においては、主幹事証券等が買い支えることがあることも周知の事実である。

 私は、法律に詳しいわけではないため、法解釈についてはさまざまな議論がありそれらも確認してほしい。ただ、一般論として、株式の募集・売り出しを行うにあたり、株価の急激な変動を回避することや、募集行為を円滑に行うために安定操作取引が必要である場合、そしてそこに合理性が認められ、かつ届出・報告等の所定の手続によって行われる場合には適法とされていると考えるべきだろう。

 これはあくまでも個人的な考えであるが、POやIPOを株価の急激な変動をから守るための安定操作は多くの一般投資家にとってメリットのあることであり、SESC(証券取引等監視委員会)も強く規制に走らない。だが、ブロックオファーでの取引を安定操作することは、売却予定の大株主のみ保護するものであり、多くの一般投資家にとって不利になる可能性があることから、今回当局のメスが入ったのではないかと考えられる。

 今後、事件の全貌解明や関与した社員や会社がどのような処分を受けるのかについては、まだまだ時間を要するのではないかと思われるが、新たな用語や事実が出てくることも予想される。その際には、あらためてわかりやすく解説していきたい。(文=中沢隆太)

●中沢隆太(なかざわ・りゅうた)
投資家のための情報プラットフォーム「ネコパートナーズ」専属アナリスト。SMBC日興証券リテール部門同期600人のトップを独走ののち、現職。
中沢氏のレポートも読める「猫組長TIMES」の購読はこちらから→https://neko.theletter.jp/

SMBC日興証券相場操縦疑惑はどこが問題なのか? 元社員がその「落とし穴」を解説のページです。ビジネスジャーナルは、マネー、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!