ファミマ、店舗オーナーから本部に不満噴出、他社コンビニの「草刈り場」化の懸念

ファミリーマートの店舗

 大手コンビニエンスストア、ファミリーマートは2022年、旧サークルKサンクス(CKS)のオーナーたちとの契約更新の山場を迎えている。いわゆる「ファミリーマート2022年問題」だ。

 18年度までに契約更新した4575店舗のうち今年度は2720店舗の契約更新が行われることになるが、このなかには渋々契約を結んだオーナーも少なくなかったということを前編ですでにレポートした。今回は、契約を更新したオーナーが今どう考えているのか、話を聞いてみた。

 このオーナーも契約更新当初、ファミマの経営に大きな不満を持っていたという。

「契約当初は正直、ファミマの運営体制には疑問を感じていましたし、本当にひどいと思いました。CKSからブランド転換して最初に一番驚いたのは、雑誌の返本の仕組みです。いっぺんに返本することができず、書籍類はその種類に応じて3つぐらいに分けて出さなければならなかった。それぞれ伝票処理をしなければならないので非常に手間がかかった。しかもシステムはCKSよりも明らかに10年は遅れていましたから大変でした」

 問題はシステムだけではなかった。契約上は人手不足の際には本部が人材を派遣するなどの条項が入っていたが、実際にはほとんど機能していなかったという。さらにファミマとCKSのロイヤリティを比較すると、一般的にはファミマのほうが10%近く高いといわれている(基準によっても変わってくるが、ファミマは48%(営業総利益が月300万円以下の場合)であるのに対してCKSのロイヤリティは37%(同、月240万円以下の場合))。

「CKSが大手4社のなかでは一番ロイヤリティが安かった。これではロイヤリティが上がるだけじゃないかと思いましたよ。それでも当時は複数店やっていて一つの店舗の契約が6年ぐらい残っていましたので、ファミマとの契約を更新せざるを得なかった」(元CKSオーナー)

澤田改革も道半ば

 こうした惨状をファミマ本部ももちろん、指をくわえて見ていたわけではなかった。16年9月に社長に就任した澤田貴司氏は全国の店舗を行脚し、実情をつぶさに視察した。このとき澤田氏も相当な危機感を抱いていたという。

「澤田さんが社長となってからは、かなり変わったと思います。書籍類の伝票処理も一度にできるようになった。まずいといわれていた弁当もリニューアルされ、味もかなり改善されたと思います」(同)

 ファミマの傘下入り以降廃止されていた補助金も、16年9月には「新FCパッケージの導入」が行われ、廃棄ロス助成金や水道光熱費助成金、店舗運営支援金などが新たに導入された。さらに澤田社長などが中心となり、店舗のオペレーションの抜本的な改革に着手。マニュアルの削減や、販促物の納品形態を変更するなど、ストアスタッフの作業負荷軽減を実施した。しかし、いまだ改革は半ばだった。

 依然としてレジの刷新は大手3社のなかでは一番遅れていた。すでにローソンは19年までには全店舗にセルフレジの導入を完了し、セブン-イレブンが1万3500店舗(2021年5月末現在)で導入しているのに対して、ファミマは約6300店舗(設置台数は約7000台、21年7月末現在)。ファミマは18年2月までに全店舗に金券の発券もできる「次世代POSレジ」を導入したというが、すべてのレジに導入したわけではないという。

「うちは2台あるうちの1台だけ。『Go To Eatキャンペーン』の食事券など金券類はひとつのレジでしか発券できず、しかも時間がかかる。一方のレジに客が殺到すれば混雑の原因にもなる」(同)

 複数枚の金券を同時に発券できる他社のシステムと比べれば、かなり見劣りすることは明らかだ。

「昨年9月には勤怠管理システムを導入したのですが、サーバーの容量が小さくすぐにパンクし仕事に支障をきたしました」(同)

 組織の見直しについても課題を残したままだ。地域を管轄するスーパーバイザー(SV)は本来、本部と店舗の橋渡しをしなければならないが、それがうまく機能していないという。

「SVは本部と店舗の間に立って調整することが期待されているんですが、ファミマのSVは大学出たてのような子が多く、本部の意向を一方的に伝えるだけで、ほとんど“伝書鳩”状態なんですよ。これでは現場の声を本部にあげるなんて難しいと思いますよ」(同)

強くなる伊藤忠の影響力

 それでも澤田社長は店舗のオーナーに寄り添い、24時間営業の見直しなど大胆な改革を進めようとしていたが、収益面での改善が図れないままにファミマの親会社である伊藤忠商事は20年11月、ファミマの全株式を取得して非上場化し完全子会社とした。そして先陣を切って改革を進めていた澤田社長は21年2月に社長を退任して副会長に就任。代わって伊藤忠商事でファミマを所管していた「第8カンパニー」のトップ、細見研介氏が社長に就任している。

 細見体制は「駅構内や郵便局内に無人決済システム導入」「電子看板の導入」「複数あったPB(プライベートブランド)を一本化し『ファミマル』に統合」と矢継ぎ早に話題性のある戦略を展開した。しかし、こうした動きに対して店舗のオーナーにはあまり響いてはいないようだ。

「PB商品は以前にくらべて充実しましたが、それほど大きな変化はありません。ただ親会社が強くなった印象を受けています。本部が全国一律に推奨する重点商品というものがあるんですが、このなかにはあまり売れない商品が含まれている。おそらく本部とメーカーとのしがらみのようなものがあるんでしょう」

 カウンターフーズの冷凍チキンなど、消費期限内ではあるものの半年前に売れ残った在庫が重点商品となっていたこともあったという。ちなみに重点商品とは新商品など本部の推奨する商品で、導入率が悪いと本部のSVから指導を受けることになるという。

コンビニ3社の勢力争いが再び勃発か

 今後ファミマが契約更新を進めていくには、やはり労働環境や契約条件の大幅な改善が求められることだろう。店舗のオーナー側も安穏とはしていられない。コンビニのオーナーの多くは雇われオーナーであり、契約更新しなければ店舗を残し、店を去ることになる。だからオーナーが抜ければファミマの店舗数がいきなり減少するわけではない。前任のオーナーが辞めれば新規のオーナーを探すか、既存のオーナーに店舗を任せることになる。では辞めたオーナーはどうなるのか。

「コロナ禍のなかで景気が大きく後退し、退職後の再就職も難しくなってきている」(コンビニ関係者)

 しかし元酒店の経営者など店舗を保有するオーナーとなれば話は別だ。コンビニ他社はこうしたオーナーを何が何でも自分の陣営に引き込みたいが、これまでは手が出せなかった。

「大手コンビニ間ではかつての映画業界の『5社協定』のように、お互い引き抜きを禁止する“紳士協定”が結ばれているからです。そのため簡単にファミマからセブンやローソンに移ることはできない」(大手コンビニ幹部)

 しかし契約が終了したということになれば話は別だ。店舗を保有するオーナーは旧CKSのオーナーのうち「1割程度はいるのではないか」(大手コンビニ関係者)とみられている。

 それでなくてもコンビニは人手不足に悩まされている。オーナーの大量流出が起これば、店舗を閉鎖せざるをえない状況に追い込まれる恐れがある。人手不足のなか、旧CKSのオーナーたちが今後の草刈り場となり、コンビニ3社の勢力争いが再び勃発する可能性は否定できない。契約更新問題についてファミマの広報に問い合わせたが「回答は控えさせていただく」との返答しか返ってこなかった。

 上場を廃止し伊藤忠商事の100%子会社となり、巨額の設備投資でなんとか業界2位の地位を維持してきたファミマだが、オーナーの大量流出となれば再び3位への転落という恐れもある。ファミマにとって、今年はまさに正念場といっていいのではないだろうか。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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