「出戻る当事者にもメリットは多いです。最大のポイントは、一般的な転職に比べて期待値が調整しやすい点です。特にコロナ禍で面接もリモートで行う企業では、オフィスの雰囲気が把握しづらく、入った後に『想像と違った……』と感じる場合も少なくありません。ブーメラン社員だと、入社後、社内の空気感や経営方針などにミスマッチを感じにくいと思います」(同)
こう聞くと、転職の選択肢に「過去に勤務していた会社」を入れたくなるが、誰もがブーメランできるわけではないことは肝に銘じておく必要がある。
「過去に多くの企業が再雇用を行った際は、育児や介護などのプライベートな理由でいったん職場を離れざるを得なかった人を対象に声をかけるケースが主でした。そういった事情ではなく退職した人は、『過去に勤めていたから』という理由だけでは出戻りは難しいでしょう」(同)
カムバック制度を設けている企業でも、やむを得ない事情で退職した人に限定して募集しているケースが多いという。そうではない退職者がブーメランをするのはハードルが高そうだが、その障壁を飛び越える術はないのだろうか。
「一度外に出たからこそ身につけられたスキルや経験など、何かしら『お土産』を持ち帰れるといいでしょう。その会社に不足している能力を他所から持ち込み、プラスの効果をもたらしてくれる人は、よほど印象の悪い辞め方をしていない限りは出戻れる可能性が高いです」(同)
さらに、佐野氏は「やむを得ない事情で退職したわけではない人をブーメラン社員として受け入れる場合は、経営者が『なぜこの人の出戻りを許可したのか』についての説明を直接の上司や同僚に必ずすること」と念を押す。その人がどんな「お土産」を持ち帰ったのかなど、カムバックの経緯や背景を伝えないと、既存社員の反感を買いかねないからだそうだ。
退職時の「置き土産」が重要に
ブーメラン社員を取り巻く制度は、今後どのように変化していくのか。佐野氏は「企業側は制度を充実させていくのでは」と展望を予想する。
「アルムナイネットワーク(退職者のネットワーク)を作っている企業は増えていますし、新型コロナの影響もあるので、制度自体は整っていくと思います。ただ、やはり誰彼かまわず出戻りを歓迎する企業は少ないでしょう。誰でも歓迎してしまうと、『辞めても簡単に戻れる会社』という印象を持たれる可能性もあるからです。やはり経営、人事側としては、退職した社員よりも今働いている社員の気持ちが最優先といえます」(同)