とはいえ、今は「人生100年時代」と呼ばれ、いわゆる定年後まで働くのが当然になりつつある。いずれ50代、60代を迎えて転職が難しくなったとき、もし「過去の勤務先」が「転職先」として自分の出戻りを受け入れてくれるとしたら、この上ない幸運だろう。そんな未来を潰さないためにも「退職の仕方がとても重要です」と、佐野氏は力説する。
「出戻るときの『お土産』はマストですが、退職するときも『置き土産』を残すといいですね。立つ鳥は絶対に跡を濁しますから、できる限り濁した水を入れ替えてから出ていくと、いずれカムバックをするときに戻りやすい基盤を作っておけると思います。辞める直前ほど、プラスを積み重ねましょう」(同)
どんな理由にせよ、人が辞めるときには仕事に穴が開き、残される立場の人間には普段以上の負担がかかってしまう。どれだけ「円満退職」を目指しても、事実上は不可能なのだ。
「ただ、『円満退職はできない』とわかっていれば、『できる限り良い辞め方をしよう』というふうに意識が切り替えられます。どれだけカムバック制度が充実してきているとはいっても、最終的な判断は属人的になる場面はまだ多いです。退職直前のアクションが『未来の転職先を作れるかどうか』に関係してくると考えながら行動してみてください」(同)
そう遠くない未来に、ブーメラン雇用が当たり前になっていく時代が訪れるだろう。今のうちから出戻れる環境づくりを進めておくのが、賢明なビジネスパーソンのキャリア戦略となっていくかもしれない。
(文=鶉野珠子/清談社)
●佐野創太(さの・そうた)
著者/日本初、唯一の「退職学®」の研究家。1000名以上の「会社辞めたい」からはじまる退職・転職・フリーランス・働き方の相談と、自身の最低と最高の退職をもとに『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!転職後も武器になる思考法』(サンマーク出版)を出版。退職後も声をかけられ続ける人物に成長する「最高の会社の辞め方」を通じて、終身雇用の次の働き方である「セルフ終身雇用」を提唱している。また、退職者の本音に触れる立場から、企業には社員と信頼関係を築く「退職者コミュニケーション」を提供している。