結局、2つのケースのどちらの場合も、TSMC熊本工場における日本のシェアへの貢献度は月産5.5万枚の20~30%程度にしかならない。残りは全部、日本以外にカウントされるわけである。つまり、TSMC熊本工場に4000~5000億円もの補助金を出しても、世界市場における日本半導体産業のシェアの向上は微々たるものである。
マイクロン広島工場のケース
マイクロン広島工場のルーツは、NECと日立製作所が合弁で設立したエルピーダメモリである。もしエルピーダのままであれば、ここに補助金を出して生産されたDRAMのすべてが日本のシェアとしてカウントされることになっただろう。ところが、エルピーダは12年2月に倒産し、その後、米マイクロンに買収された。したがって、マイクロン広島工場が生産したDRAMは、米国に本社があるマイクロンのものとしてカウントされる。つまり、マイクロン広島工場に補助金を出しても、日本のシェアへの貢献度は厳密に0%である。
キオクシア四日市工場と北上工場のケース
四日市工場と北上工場は、日本のキオクシアと米国のウエスタンデジタル(WD)が共同で経営している。この2社は設備投資を折半し、生産されたNANDも半分にして、それぞれのビジネスは独自に行っている。ここに補助金を投入した場合、日本のシェアを向上させる寄与分はキオクシアの50%しかない。残りの50%は米国のWDにカウントされることになる。
自己矛盾に陥っている経産省の半導体政策
経産省は、今のままでは日本半導体産業のシェアが30年に0%になってしまうという危機感を持った。そこで、シェアの低下を止め、上昇に転じさせるために政策を立案した。その目玉が、半導体工場の新増設に補助金を投入する改正法の立案だった。この改正法は21年12月20日、参議院本会議で与党などの賛成多数で可決し、成立した。その改正法により、補助金は国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に設置する基金から複数年にまたがって拠出する。その基金は、21年度補正予算でまず6170億円を計上した。
この改正法による補助金の投入対象となっているのは、TSMC熊本工場、マイクロン広島工場、キオクシア四日市工場・北上工場である。ところが、本稿で分析した通り、補助金を投入しても、TSMC熊本工場の月産5.5万枚の20~30%しか日本のシェアには貢献できない。また、マイクロン広島工場の貢献度は厳密には0%であり、さらにキオクシア四日市工場・北上工場では、その50%しか日本のシェアの増大に貢献しない。
したがって、経産省が立案した政策に従って、日本政府が補助金をTSMC熊本工場、マイクロン広島工場、キオクシア四日市工場&北上工場に投入しても、世界市場における日本半導体産業のシェアの向上は、1%あるかないかだろう。
筆者は2021年6月1日の衆議院の意見陳述で、日本半導体産業が凋落したのは「診断が間違っていたため、その処方箋も奏功しなかった」と論じた。今回の経産省ならびに日本政府の診断と処方箋も、間違っているといわざるを得ない。巨額の補助金を投入したところで、日本半導体産業の大幅なシェアの向上は、ほとんど期待できないからだ。はっきり言って、経産省の政策は自己矛盾に陥っている。ただちに考え直すべきである。君たち、本当に、何もわかってないんじゃないのか?
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)