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虐待事件や拡大自殺事件が続く日本、「アメリカ式対策」を取り入れるタイミングか…在米心理士に聞いた

(構成=高橋聖貴)
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――最後に、本書で強く訴えている「法と倫理」について、説明していただけますか。また、日本で「法と倫理」が必要な理由も教えてください。

吉川 人種のるつぼと呼ばれるアメリカでは、価値観や道徳観が異なる人たちが共存しています。当然、いさかいやもめごとの種は尽きません。

 このような状況では「皆で守るべき倫理観」をあいまいな形で期待することは難しいですよね。そこで法律や各種の規定と並列して、倫理規定も厳しく制定されているのです。

 倫理違反は、法律違反と同様に処罰の対象になります。倫理規定は職業ごとに○○○○協会などと呼ばれる組織の決まりとして設けられていることが多いですし、社則で倫理規定を設けている会社もあります。

 テレビドラマ等でご覧になった方も多いと思いますが、アメリカは訴訟大国と呼ばれるほど頻繁に裁判が行われています。「スモール・クレームズ・コート(少額裁判)」と呼ばれる、訴える金額が少額の事案を専門とする裁判所もあります。裁判で使われる訴状が日本に比べて非常に簡素で、事実確認や原因究明がなされていない段階でも簡単に訴訟を起こせます。

 このように、誰でも訴訟を起こせる社会ですから、医師・教師・心理士など、人にサービスを提供する職業の人たちは訴訟に対して敏感です。彼らは強い法と倫理規定を、大学やインターン期間中に学びます。

「何か違反をしたらどういう結果になるか」という点を議論し、「違法・倫理違反行為を行ってはいけない」と確認します。そうやってプロ意識と自分の臨床実践への危機感を養うわけです。

 では専門家が法や倫理上の違反を犯したら、どうなるのでしょう。当然、被害者であるクライアントが訴訟を起こす可能性が日本よりも高いです。このようにアメリカが訴訟社会であることも、専門家が技術を磨くだけでなく、職業倫理を向上させるのに一役買っていると言えるでしょう。

 虐待・自殺に介入するときにも法と倫理は大きく関わります。アメリカでは、とにかく人命を救うことや、子供・お年寄り・障がい者などの弱者を助けることを最優先にするという姿勢が徹底されていますが、ここにも法と倫理に関わっています。日本で虐待自殺を減らすために、日本の法律と倫理規定が並行して改善される必要があると私は考えています。

 カリフォルニア州と同じ制度を今すぐ制定するのは難しいと思いますが、少しずつ法と倫理規定を細分化し、違反した場合の厳罰化を進めてもいいのではないか、と私は考えます。

(構成=高橋聖貴)

『日本の虐待・自殺対策はなぜ時代遅れなのか』
『日本の虐待・自殺対策はなぜ時代遅れなのか』(開拓社)

●吉川 史絵(よしかわ・ふみえ)
1982年、埼玉生まれ。ロサンゼルス在住。明治大学文学部卒、ペパーダイン大学大学院臨床心理学専攻結婚・家族心理セラピー修士課程修了。カリフォルニア州公認結婚・家族心理セラピスト。現地私立中高一貫校のスクールカウンセラーを経て、カリフォルニア州政府犯罪被害者支援プログラム認定の犯罪被害者専門の心理支援エージェンシーに勤務。現在はアメリカ合衆国の3大健康保険システムの一つである健康維持機構カイザーパーマネンテと業務提携にあるクリニックで病院と連携し、クライアントへ心理療法を行っている。2022年2月に『日本の虐待・自殺対策はなぜ時代遅れなのか』(開拓社)を出版した。

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