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松岡久蔵「ANA105便の真実―CAはなぜ帰らぬ人となったのか」(1)

「ANA経営陣の人災で妻を亡くした」CA昏睡で緊急着陸せず死亡、運航部門の指示に疑問

文=松岡久蔵/ジャーナリスト

05:07 右中央ドアから救急隊員が搭乗、ストレッチャーに乗せ降機。地上係員1名が同行。

05:15 救急車に乗った際は、ご本人の意識はなく、息をしているかは不明。O2吸入をしていた。救急車の中では、症状の診立てなどの話はなし。

05:22 同行した客室マネジャーより、ご主人の携帯電話に連絡。

05:33 東邦大学医療センター大森病院 到着

――報告書、ここまで――

事件をめぐる2つの検証点、1「着陸体制にまで入った新千歳空港から羽田への針路変更」、2「Tさんへの救護措置」

 この状況報告書には大きな2つのポイントがある。

 1つ目は「最寄りの新千歳空港に着陸しようとした機⻑判断を覆し、羽田に針路変更させた東京の運航管理部門(OMC)の判断は適切だったか」、2つ目は「Tさんへの救護措置が適切 だったか」である。

 2つ目のポイントについては本連載(2)で報じるため、本稿は東京のOMCの判断が適切であったかについて検証していく。状況報告書とあわせてANAがAさんに渡した「運航に関わる経緯」という書面もみていこう。

「日本時間1月10日 (木) 2時40分頃、北海道の東方沖上空を飛行中であったNH105 (ニューヨーク発/羽田着) 【筆者注:原文ママ/『ニューヨーク発』は『ロサンゼルス発』の誤り】の機長よりオペレーションマネジメントセンター(以下、OMC) に客室乗務員(以下、CA) 1名の意識がないため、新千歳空港 (以下、 CTS) への目的地変更 (以下、ダイバート) を検討している旨の一報が入る。

 その後、当該のCAの容態に変化がないことから、2時55分頃にCTSへのダイバートに向けた調整を始めた。当該の時間帯は深夜時間帯ということもあり、CTSにある2本の滑走路のうち1本が雪作業による閉鎖、またもう1本の滑走路は工事作業により閉鎖となっていた。

 そのため、OMCではNH105の機長からの第一報受信後に、国土交通省東京航空局新千歳空港事務所(以下、CTSCAB) に滑走路の状況確認を行った。CTS の滑走路の運用を再開するにはCTSCABに対して1時間前に申請し、許可を得る必要があったこと、またNH105 の CTS までの予定飛行時間が約1時間であった。そのため、OMCよりCTSCAB に対して滑走路の運用再開の申請を行った。

 あわせて、3時頃にOMCよりCTSにおけるANAの事業所である ANA新千歳空港株式会社(以下、CTSAP) にも連絡を入れ、ダイバートの受け入れ準備の指示を行った。一方で、運航便のない深夜時間帯では追加要員の緊急呼び出しが必要であり、空港に出頭するまでには約1時間を要するという返答がCTSAPよりあった。そのため、OMCではCTSへのダイバートと元々の目的地である羽田 (以下、HND) への運航継続の両方の選択肢を視野に入れ、状況確認を続けた。

 3時30分の時点での状況として、NH105はあと20分ほどでCTSに着陸予定、CTSAPは管理職が空港に向けて移動中というものであった。また、CTSCAB からは、NH105の着陸後に ANAの地上ハンドリング体制が整うまでは地上待機が必要であるといわれていた。OMCでは迅速な救急搬送が実施できないリスクを鑑みて、3時40分頃にCTSへのダイバートではなく、24時間空港であるHNDへの運航継続を判断している。

 NH105はHNDに4時41分に着陸し4時48分に109番スポットに到着。5時15分 頃に救急車による救急搬送を行い、 5時30分頃に東邦大学大森病院に到着している。

                                   以上」

東京からの指示で、約50分のロス、昏睡したCAの回復の可能性を奪う

 この経緯説明書によると、当初機⻑判断で新千歳に向かい着陸寸前だった105便に対し、東京のOMCが「ANAの地上ハンドリング体制が整うまでは地上待機が必要である」こと、「迅速な緊急搬送が実施できないリスク」を理由に、24時間対応可能な羽田に針路を変更させた。大手航空会社の現役パイロットはこの指示により約50分のロスが生じたという。 

「機長が新千歳へ向かうと判断した地点からは、新千歳へは約1時間10分で着陸でき、羽田までは通常約2時間半かかります。緊急事態を宣言し、直線的に羽田へ向かう許可をもらい、増速した場合は約1時間50分ですが、今回は悪いことに新千歳への着陸20分前に目的地変更が指示された。これによって余分な時間がかかり、異常発見から約2時間もかかって羽田に着陸した。結果として新千歳に直線で向かった場合に比べ、約50分の差が生じてしまった」

 脳出血の治療は一分一秒を争う。50分もの差はTさんが助かる可能性を著しく奪ったと考えられる。

CA救助のために最寄りの新千歳に向かった機長の判断は「正しかった」と現役・OBのパイロット

 まず、新千歳空港に向かった機長の判断の適切さについて確認したい。筆者はANAも含めた複数の航空会社の現役・OBのパイロットに見解を求めた結果、一致して「まったく適切な判断だった」との回答を得た。ANAのパイロットはこう理由を説明する。

「太平洋を日本へ向けて横断する場合、医療的な問題で目的地変更する際にはアラスカのアンカレッジを過ぎると新千歳しかないというのはパイロットとして一般的な見解です。今回は1時間で新千歳に着陸できる状況にありました。パイロットの使命は安全に着陸することであり、この機長はまったく正しい判断をしたと思います」

 19年1月10日の新千歳空港周辺の天候は曇りではあったが、暴風雪のような荒れた天候ではなく、着陸に障害が出るような状況ではなかった。現地のスタッフも着陸までギリギリ間に合うか、少し遅れる程度で空港に到着することは可能であったことなどを考えると、あくまで結果論ではあるものの、新千歳に着陸して地上の緊急医療を受けていればTさんが助かる可能性はあったといっていいだろう。

緊急着陸には運航管理部門の支援と誘導が必須、早朝深夜の新千歳では想定の甘さが露呈

 本来、緊急事態発生時の目的地変更について全体を見るべきなのは機長ではなく、OMCである。今回の一連の動きから見て、「国際線の太平洋側の窓口」である新千歳空港での早朝深夜の国際線での急病人発生の対応について、事前に十分な想定がなされていたとは考えにくい。

 今回のTさんのケースでは救急救命時に際して、緊急時の着陸に応じられるような体制を整えることができていなかった。最低限必要なスタッフの当直体制が組まれていなかった上、新千歳周辺の医療環境の把握などが十分ではなかった。

「羽田に向かったほうが早く医療を受けられるのなら、機長が新千歳への目的地変更をOMCに連絡した時点で羽田への運航継続を助言すべきだった」(先のANAのパイロット)

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