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松岡久蔵「ANA105便の真実―CAはなぜ帰らぬ人となったのか」(3)

勤務中のCA死亡、ANAが葬式で隠蔽行為か、遺族が告白…報告書で事実を歪曲か

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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夫のAさん「労災認定の獲得は妻の尊厳を取り戻すこと」

「妻はね、家で仕事の愚痴を言ったことがないんですよ。我慢強くて責任感が強い人だった」

 筆者がTさんとAさんのご自宅で焼香をあげさせていただいた際、AさんはTさんの人柄をこう話してくれた。AさんはTさんの納骨をまだできていない。「105便のフライトに出かける時、普段通りに『行ってきます』と出かけていった。どうしても二度と帰ってこないとは思えないんです」

 恋愛から結婚も含めて2人の関係は20年以上続くが、TさんとAさんはほとんど毎週、遊びに出かけるほど仲の良い夫婦だった。Tさんはカエルとくまモンが大好きで、Aさんとの旅先で人形などのグッズを買い集めるのが楽しみだった。ご自宅には手先が器用なAさんがつくった木棚にコレクションが飾られている(下写真)。旅先での写真の表情も非常に明るく、TさんにとってAさんとの旅行は職場で受けた差別のストレスを解消し、生きる支えだった。

勤務中のCA死亡、ANAが葬式で隠蔽行為か、遺族が告白…報告書で事実を歪曲かの画像2

 Tさんがあと3年程度で定年を迎えた後は悠々自適、夫婦水入らずで老後を楽しむつもりだった。それが、105便に乗務したことで、すべて叶わぬ夢になってしまった。

「14年4月に国内線と国際線の混合勤務が始まってから、妻が国際線の乗務に向かう時、いつも背中が小さく見えたんです。彼女の異変にもっと早く気づいてやれれば。どうしても自分をこう責めてしまうんです」

 労災の審査請求はこの春にも山場を迎える。

「夫である私にとって妻の労災認定獲得は、彼女の人間としての尊厳を取り戻すことなんです。ANAは当日の状況や背景などをまともに説明しないし、労基署もろくに調べていない。なぜ妻は105便の乗務中に亡くならなければならなかったんでしょうか。もしこのまま誰も真摯に向き合わないまま、自己責任の私病で片付けられたとしたら、妻があまりにも不憫でならない」。

 労働時間が特に重要視された前回の不支給決定時とは異なり、昨年9月に約20年ぶりに改正された脳・心臓疾患の労災認定基準では「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」などの「時間以外の負荷要因の総合評価」が加えられた。死亡したCAの労災申請は初めてで、認定されればTさんが国内第1号となる。 

ANAのCAは01年以降30人以上が死亡

 今回のTさんの事件で明らかになったように、ANA独自の人事評価制度や過酷勤務が、安全対策の基本であるCAのチームワークと健康を蝕んでいる。ANA関係者によると、CAの平均在職年数は6年半で、2001年以降に30人以上のCAが死亡している。特に、14年2月から20年10月までの国際線を急拡大した時期に至っては16人も亡くなっており、平均して1年に2人を上回るペースで死亡していることになる。

 14年と15年に国際線で最も過酷なニューヨーク便で、乗務後に現地で死亡したCAが複数出たことは社内で大きな動揺を起こした。米国現地の捜査当局まで動いたとの情報もある。

 これらの死亡をANAはすべて「私病」扱いで業務と無関係としている。だが、国内線と国際線のマルチ勤務の結果、「時差で眠れないから、マイスリーという睡眠薬を5〜10ミリグラムほどステイ先に持ち歩いたり、アルコールで無理矢理眠ったりするCAがびっくりするほど多い」などといった情報が多くの現役CAから寄せられており、いくら不規則な勤務が前提の職種とはいえ、何か異常なことが起きているのではないかと疑わざるを得ない。

利益優先、競合他社への対抗意識は大事故につながる危険、ANAは安全対策の徹底を

 筆者はTさんが遺したメモや乗客からの感謝カード、遺品をみた時、一人の人間が確かにこの世に存在したのだと実感した。交換可能な部品でもなければコマでもなく、愛する夫がいる自立した女性が懸命に生きていたのである。105便のフライトでも、ANA経営陣が安全対策を徹底していたら、その命は十分に助かる可能性はあった。同じことは二度とあってはならない。

 それに、筆者は自分の家族や友人、知人、読者の皆様を飛行機事故で亡くしたくはない。飛行機の乗客は全員、チケットを買う時、航空会社が安全を保証してくれていると信じている。ANA経営陣はその信頼に十分に応えようとしているだろうか。

 JR西日本の福知山線脱線事故といった深刻な事故は、経営陣の利益優先、競合他社への過剰な対抗意識が根本にあることが多い。もし、ANAグループが乗員乗客に対する安全配慮義務という航空会社の基本をおろそかにしているとしたら、その先にあるのは、惨劇しかない。

 ANA経営陣には、コロナ禍が収束し国際線を本格的に再開する前に、乗員乗客の安全を前提とした運航体制、過重勤務、CAのチームワークを阻害する人事評価制度の見直しをどうか徹底していただきたい。これ以上、誰かが犠牲になってからでは遅い。 

 改めて、Tさんのご冥福を心よりお祈りする。労働当局には厳正な審査をお願いしたい。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

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【本連載はこちら】

(1)「ANA経営陣の人災で妻を亡くした」CA昏睡で緊急着陸せず死亡、運航部門の指示に疑問

(2)ANA、CAが勤務中に死亡、連続6日の過酷労働…病歴申告も無視、国際線勤務に編入

ANA、CAが勤務中に死亡、連続6日の過酷労働…病歴申告も無視、国際線勤務に編入の画像5●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)

Kyuzo Matsuoka

ジャーナリスト

航空、防衛などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。情報提供はツイッターまで。https://twitter.com/kyuzoleaks

ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/

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ANA、CAが勤務中に死亡、連続6日の過酷労働…病歴申告も無視、国際線勤務に編入の画像6

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