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野村直之「AIなんか怖くない!」

ロシアを窮地に追い込んだウクライナ政府の驚嘆すべきIT・AI戦術…世界中を動かす

文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員

 5)について、インタビュー記事中の本人談を引用します:

“公共サービスを立ち上げるための工場のようなものを作りました。それを可能にしているのが、1500万人のユーザーを持つ私たちのアプリです”

“政府が運営するすべてのデータベースの相互運用と、新しいサービスを立ち上げて提供するために微調整された管理組織(を実現)”

“例えば、この戦時中に、戦闘で大きな被害を受けた地域からの移住を余儀なくされた人たちに、現金を支給するなどのサービスを開始”

“(スマホ向けサービスに)無料の公共テレビと無料のラジオを埋め込み”

“公式なルートで軍への募金を行えるようにしました” (例えば仮想通貨で出来るよう立法作業も1日24時間、週7日体制で会議しつつ実施)

“敵の動きも追跡して報告できるサービスもあります。基本的にはクラウドソーシングによる情報提供ですが、戦争が勃発してからわずか数日でそれを開始することができました”

“戦時中に、誰であろうと、どこにいようと、どんな身分であろうと、内部移動と公共サービスを受けるための重要な情報をすべて網羅した追加書類を公開することができました”

“将来の手続きのために、基本的に戦争で損害を受けたり破壊されたりした場合に備える資産目録サービスにも取り組んでいます”

 フェドロフ副首相は、この凄まじい戦時下で、数日単位で、新しいデジタル国家インフラ、侵略に対抗するためのITインフラを立ち上げているのです。戦後の補償(税金にせよ、ロシアに最初の1カ月分で70兆円と計算済の損害賠償にせよ)のための資産目録をスマホで簡単に登録できるサービスを激戦下で作っているなど、驚異的な先見性、先回りサービスの実装能力といえるでしょう。

顔認識AIによる兵士、戦争犯罪者の特定

 6)については、現地時間3月13日のロイター記事が衝撃的でした。20世紀的な戦争を遂行しているかにみえるロシアは、戦争のどさくさで、戦死者の特定や正確な人数の把握など、攻められている敵軍にできるわけない、と高をくくっていたのではないでしょうか。NATOがロシア兵推計戦死者数が1万5000人近いとしていた3月25日に、ロシア公式発表は1351人。米国ベンチャーのClearview AI(クリアビューAI)の申し出により同社の顔認識技術を無償で導入したウクライナは、ロシアの嘘を暴けるだけでなく、個々の兵士の名前を特定し彼らの振る舞いを監視カメラ画像で紐づけることにより、戦争犯罪を極めて正確にきめ細かく証拠立てることが可能になりました。

 クリアビューAI社の創業者ホアン・トンタット最高経営責任者は、ロシアのソーシャルメディアサービスであるVKontakteから、合計100億枚以上の写真のデータベースのうち、20億枚以上の画像を自由に利用できると語りました。3月22日のニューズウィーク日本版記事によれば、指紋照合には及ばないものの、2021年11月に実施したテストにおいて、米国の顔認証技術として1位を獲得。1200万枚のサンプルから同じ人物の顔画像を照合するテストにおいて、99.85%の精度をたたき出したといいます。

 平時であればプライバシー問題、もっと深く、基本的人権の侵害に結びつきかねない、憲法談義まで呼び起こしそうなところですが、戦時の「なんでもあり」の情報戦においては、活用ノウハウを磨き上げることに追い風が吹いているといえるでしょう。

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23:30更新
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