すると、最前列に陣取っていた多くの国会議員から「おお! すごいね、君、絵が動くじゃないか!」と歓声が上がったのである。こちらとしては、そんなことはどうでも良くて、内容に注目してほしいと思うのだが、約1時間の講演を行っている最中ずっと、アニメーションの動きに「おお、おお!」という声が上がり続けていたのである。この講演会終了後、大久保議員の秘書に「湯之上さん、あなたは国会で初めてプロジェクターとスクリーンを使って講演をした人になりました」と言われた。これが2013年秋のことである。
2回戦は2021年6月1日
国会での講演の2回戦は、昨年2021年6月1日となった。「衆議院 科学技術・イノベーション推進特別委員会」に半導体の専門家として参考人招致され、15分(実際は20分強)の意見陳述を行ったのである。この様子は、衆議院が撮影し、動画をYouTubeにアップしている。
この頃は、東京ではコロナの第4波が到来しており、緊急事態宣言の最中にあった。そのような時に国会に呼び出されたわけであるが、違和感を覚えた筆者は、最初の要請のメールが来た際に、「オンラインではダメですか?」と聞いてみたところ、「国会でオンラインはない」と一蹴されてしまった。
さらに、会議の開始時刻は午前9時だが、プロジェクターとスクリーンを使う場合は、8時20分までに会議室に到着するように言われていた。なるほど、2013年から8年の間に、国会の会議室にプロジェクターとスクリーンは設置されていたわけだ。しかし、プロジェクターとスクリーンを使う場合に、なんで40分も早く行かなくてはならないか、理解に苦しむ。さらに、もっとバカバカしい事態が、筆者を待ち受けていた。
参考人は席を移動してはいけません
6月1日の2週間ほど前のことである。どのような意見陳述を行うか、頭を悩ませていたが、間違いなくパワーポイントを使うことになると思ったので、衆議院の事務局にその旨を伝えたところ、以下のようなやり取りを電話で行った。
事務局 「委員会には、PC、プロジェクター、スクリーンをこのように設置することになります(図2)」
湯之上 「私は、パワーポイントでアニメーションを多用します。したがって、自分でPCの操作を行う必要があります。私の意見陳述の際、PCのそばに移動しますがよろしいですね?」
事務局 「ダメです。参考人は席から移動してはいけません」
湯之上 「なぜですか?」
事務局 「そういう決まりになっているからです」
湯之上 「では、私の前に、PCを持って来てください」
事務局 「それもできません」
湯之上 「なぜです?」
事務局 「ケーブルが短くて届きません」
湯之上 「長いケーブルを買ってきてください」
事務局 「できかねます」
湯之上 「なぜですか(もう相当イラついている)」
事務局 「とにかくそういうことはできないことになっているのです」
湯之上 「じゃあ、私がPCのそばに行くしかないですね」
事務局 「だから参考人は席から動いてはいけない決まりになっていると、さっきから言っているでしょう(相手もイラついている)」
湯之上 「じゃあ、どうしたらいいんですか?」
事務局 「誰か助手はいないのですか? 助手に操作させればいいじゃないですか」
湯之上 「私は個人事業主です。1人で仕事をしています。助手などいません。それに、アニメーションの操作は複雑なので、私しか操作はできません。例え助手がいたとしても、自分でやります」
事務局 「とにかく席を移動してはいけません」
激しくバカバカしいが、このような言い争いが本当にあったのである。マジにめげそうになった。そして、「参考人は席から移動してはいけない」ということは最後まで事務局が貫き通し、結果として筆者は、YouTubeの動画の通り、自席から移動できなかったのである(ただし、事務局も可能な限りPCを私に近づける努力はした)。国会において、かくも「前例がない」というパワーは強大なのだ。