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松岡修造の兄、東宝社長に就任……“宝塚をつくった曽祖父”小林一三と松岡家の稀代の歴史

文=菊地浩之(経営史学者・系図研究家)
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阪急電鉄の路線図。当時はど田舎だった宝塚の発展も、阪急百貨店の賑わいも、小林一三翁のおかげなのかも。(画像は阪急電鉄公式サイトより)

「需要のあるところに鉄道を敷くのではなく、鉄道を敷いてから沿線に需要を作る」

 一三は箕面有馬電気軌道の発起人会に参加するため、大阪市池田にある阪鶴鉄道本社まで11キロメートルの距離を数度往復した。そこは箕面有馬電気軌道の沿線予定地であるが、人家が少なく、乗客は見込めない。しかし、沿線予定地の不動産を買って宅地を開発すれば、万が一、鉄道経営そのものが儲からなくとも、不動産収入で利益が出るはずだ。また、その住民が乗客になれば、運賃収入も見込めるはずとの予測を立てた。「需要のあるところに鉄道を敷くのではなく、鉄道を敷いてからその沿線に需要を作ればいい」。今でこそ当たり前となった私鉄会社の戦略が開花した瞬間であった。

 一三は資金をかき集め、1907年に箕面有馬電気軌道の創設にこぎつけた。筆頭株主・北浜銀行の代表として岩下清周が社長に就任し、一三は専務となり実務を担った。そして、沿線の池田新市街地の宅地を造成し、《売値の20%を頭金としてもらい受け、その残りは10年分割の月賦》方式で販売した。これが見事に当たり、大反響を巻き起こした。さらに豊中、桜井などの住宅地を順次販売し、大成功を収めたのである。

 箕面有馬電気軌道の経営は、しばらく岩下―小林コンビが担っていたが、1914年に北浜銀行が取り付けにあって、頭取・岩下清周が財界から引退、箕面有馬電気軌道の社長も辞任した。一三と北浜銀行の新頭取はソリが合わず、一三は同行所有の株式を買い取って大株主として実権を握り、1927年に社長に就任した。

 ちなみに、箕面有馬電気軌道は1918年に阪神急行電鉄と改称し、1943年に旧京阪電気鉄道を吸収合併して、京阪神急行電鉄と改称(1949年に京阪電気鉄道の路線を分離)。1973年に阪急電鉄と改称した。

「温泉地の催し物」として始まった宝塚歌劇、「東京の宝塚」としての“東宝”

 先述した通り、一三は鉄道経営だけでなく、宝塚歌劇団東宝、阪急百貨店(現 阪急阪神百貨店)を創設している。実は、これらも鉄道経営の延長にあった。

 一三は箕面有馬電気軌道の終点・宝塚が温泉地であったことに目を付け、大規模娯楽施設を設立することで乗客を増やす作戦を思いつく。「需要のあるところに鉄道を敷くのではなく、鉄道を敷いてからその沿線に需要を作ればいい」の応用パターンである。

 一三は宝塚の東側(武庫川東岸)を買収し、1911年に「宝塚新温泉」を設立。大理石の大浴場ときれいな家族温泉を作り、人気を博した。

 また、新温泉のなかに室内水泳場や動物園を作り、催し物を行って集客に努めた。その最高傑作が、「宝塚唱歌隊」(現在の「宝塚歌劇団」)である。

 当時、大阪三越が始めた少年音楽隊が一世を風靡していた。一三は宝塚新温泉地の余興として、少女の唱歌隊を結成したらどうかと思い立った。かくして1913年に「宝塚唱歌隊」を設立したのだ。

 さらに宝塚歌劇団の東京進出を計画し、1932年に株式会社東京宝塚劇場を設立。有楽町に劇場を建設して東京公演の拠点とした。東京宝塚劇場は映画の興行を開始し、東宝映画を設立。1943年に東京宝塚劇場と東宝映画株式会社が合併し、東宝となった。意外にも、東宝という社名は「宝塚歌劇団の東京拠点」という意味だったのである。

 東宝は戦後に『七人の侍』『ゴジラ』『天国と地獄』や植木等の『無責任男』、加山雄三の『若大将』シリーズなどの大ヒット作を連発。映画全盛時代を謳歌するが、テレビの登場で斜陽を迎える。東宝は単独でテレビ局設立を目論むが認可されず、フジテレビへ出資するにとどまった。こうした関係から、東宝のトップはながらくフジテレビ取締役を兼務し、親密な関係を維持。テレビ局とタイアップして『踊る大捜査線 THE MOVIE』などドラマの映画化で大きな興行収入を挙げている。

 また、阪急百貨店の設立は「交通の便がよい鉄道駅に百貨店を併設すれば、儲かるに違いない」という発想がもとになっている。いまでこそ、駅に繋がるターミナル・デパートの存在は当たり前だが、百貨店が都心部にあった当時は、自動車で駅から百貨店へ送迎迎するのが一般的だったようだ。そこで、一三は1925年に日本初のターミナル・デパート「阪急マーケット」(のちの阪急百貨店)を開業、大成功を収めた。

 ちなみに一三の東京の弟子が、東京急行電鉄の創業者・五島慶太(ごとう・けいた)で、東急も師に倣うように東映、東急百貨店を設立している。

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