また、航空会社に対する差し押さえを避けるため、国外への飛行を行わないよう指示した。航空機リース会社は80機程度のリース機材を回収できた模様だが、残りの400機以上はロシアに残ったままで手が出せず、頭を抱えている。
問題は、3番目の航空機パーツの輸出禁止と技術サポートの停止である。ロシアにとって最も悩ましく、効果的な対応が難しい。つまりそれだけ制裁効果が高いといえる。
航空機パーツと技術サポートの供給が絶たれ、安全性低下の懸念
航空機パーツは、航空機の耐空性を維持するために不可欠なものである。システムの故障時には多くはパーツ交換となるし、定期的な機体とエンジンの整備でもたくさんのパーツ交換が必要となる。加えて、運航でもっとも消耗の激しいタイヤやブレーキは、故障がなくても日常的な交換が必要となる。このため、ロシアはなんとか航空機パーツを確保しようと中国に助けを求めたのだが、西側からの制裁を恐れたのか、中国はパーツ提供を拒否したという。ロシアは仕方なく、友好的なインドやトルコに助けを求めている。
他国の航空会社から多少のパーツは融通を受けられるかもしれないが、数に限界があるし、またタイムリーに手に入れることは困難であろう。西側の航空アナリストは、ロシアの航空会社は運航可能な航空機を何機か犠牲にして、その機体から「パーツ取り」をするしかなくなるだろうと見ている。そうして「パーツ取り」する機体の数は徐々に増えていくのである。
パーツ不足が常態化すると、多少の故障を抱えたままでも運航せざるを得なくなってくる。もともと航空機は信頼性確保のため多重の設計がなされているので、一系統故障しても最低の基準である「運用許容基準」を満たせば運航が許されるのだが、その基準を満たすことも次第に難しくなってくる。パーツ不足による安全性低下の懸念である。故障を抱えた状態でフライトを行うかどうかは最終的に機長の判断となるが、機長が出発を拒否するケースも出てくるに違いない。
安全性の懸念はパーツ不足だけではない。電子機器のソフトウェアのアップデート・サービスもメーカーから受けられなくなる。ソフトウェアの改善ができないばかりか、仮にソフトウェアに欠陥が見つかってもその修正ができなくなる。さらに、フライトをつかさどる電子機器であるFMS(フライト・マネージメント・システム)には、メーカーから空港や航路などのデータベースが定期的に提供されるのだが、このサービスもすでに停止されている。このデータベースには、障害物、地形などの安全情報が含まれるので、安全性にもかかわってくる。