しかし、
・深夜のワンオペは禁止しているのに、なぜ朝帯は問題がないとしてワンオペを実施していたのか?
・ワイヤレス非常ボタンを装着していたとして、意識を失った人が押すことは可能なのか?
・今回は店の入り口や客席からは見えない奥まった場所で倒れていたとのことだが、ワンオペ前提の時間帯に店内全体の様子を把握できる監視カメラを設置して、本部が監視していなかったのか? 事後的な記録を残すためというカメラの使用方法でいいのか?
・時間が法定時間に収まっていれば「過剰な無理をしていた事実はない」と言い切れるのか? ワンオペによる肉体的・精神的な負担は考慮されないのか?
など、いろいろ疑問点があります。建前的な「やってる感」でなく「なぜ、それをやるのか?」「問題点はないのか?」などと疑問を持つ必要があったと思います。疑問を感じたり改善を加えたりすることがなかったことも、今回の原因の1つとも思えます。
「現場の声」に答えがある
最後に、すき家が打ち出した再発防止策ですが、「すき家の経営方針として、本年6月30日までに全店の朝帯(5時~9時)で複数勤務とすることを決定しました」と発表されています。今回の「倒れていたのに誰も気づかなかった」という事件はワンオペに起因するものなので、複数人による勤務体制によって“とりあえず”は問題が解消されることと思います。
しかし、2014年10月に深夜のワンオペ廃止を宣言して複数勤務体制を確立したはずのすき家で再びワンオペによる悲劇が起きているわけです。今後は、常に現場の声に耳を傾けて真摯に対応・改善していくことが大事になります。従業員やお客の声をうまく経営に反映させることができれば、従業員のやる気や顧客満足が向上して、企業にも売上となって還元されることでしょう。
今回の事件について、すき家が「店舗へのヒアリングを進めていく中で、一部会社で把握していない事実がありました」と発表しているように、「定期的に」「本気で」現場の声を吸い上げないと、また違ったかたちで今回と同様のことが起こってしまうかもしれません。「現場の声」に、未然にトラブルを防止したり、売上増加につながる答えがあるはずです。それを活かすことができるか否かに、すき家の今後がかかっていると思います。
山岸弁護士の見解
ゼンショーHDは「文春」の取材に対し、今回亡くなった女性店員が、勤務中の装着が義務付けられている本部への緊急通報用の「ワイヤレス非常ボタン」を装着しておらず、従業員向け健康診断を通知していたにもかかわらず受診していなかったと説明。そして「直前の労働時間は法定の労働時間内であり、過剰な無理をされていた事実はありません」としているが、山岸純法律事務所の山岸純弁護士は次のように解説する。
「刑事罰が科されるということはないでしょうが、厚生労働省は、月100時間、または過去2~6カ月の間に80時間(月)を超えるような残業は、健康障害リスクがあると発表しておりますし、このような場合、過労死として、労災認定する可能性が高くなります。
親会社や運営会社も、数年前から”ワンオペ”の問題点を、くだんの強盗事件などで把握していたにもかかわらず、現場のオペレーション状況をわかっていて放置していたのでしょうから、いわば労働災害としても悪質です。労災は、国の制度として補償を受けるものですが、これとは別に運営会社等に対する責任追及のための法的手続きも必須でしょう」
(協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表、山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)