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最近では、ハワイのホテル・ヒルトンビレッジにて2022年6月13日~17日に開催されるVLSIシンポジウムの記者会見が4月22日に行われた。その資料から、日本の実力を分析してみよう。
VLSIシンポジウムの論文動向
図4に、2022年のVLSIシンポジウムの論文の投稿と採択状況を示す。今年は580件の投稿があり、198件が採択された。したがって、採択率は34%だった。やはり難関であることが分かる。
内訳を見ると、回路(Circuits)の投稿が348件で採択が116件(採択率33%)、デバイス(Technology)の投稿が232件で採択が82件(採択率35%)となっている。また、論文投稿の締め切りを過ぎた後に受け付ける“Late News”は5件の投稿があったが、採択された論文はなかった(採択率0%)。
次に、図5に2006~2022年の地域別の投稿論文数の推移を示す。VLSIシンポジウムは、日米半導体摩擦が激化した1980年代に、日米の半導体の研究者たちが政治の枠を超えて学術では協力することを目指して設立された学会である。そのため、偶数年はハワイ、奇数年は京都で隔年開催している。
したがって今年はハワイ開催となるが、2020年のときより5%投稿数が増加した。また、今年はアジア圏からの投稿が多かったという説明がなされた。
投稿論文数と採択論文数の動向
ここで、図5を折れ線グラフに書き直してみよう(図6)。この図6を見て、筆者は衝撃を受けた。繰り返すが、VLSIシンポジウムは日米が設立し、日米が主導してきた世界最高峰の国際学会である。そのVLSIシンポジウムにおいて、日米の投稿論文数が低下している。
それでも、米国はかろうじて1位の座を維持しているが、日本の投稿論文数の減少は目を覆う有様である。2012年までは米国に次ぐ2位だったが、その後、台湾、欧州、韓国、中国に抜かれ、昨年2021年はシンガポールにも抜かれている。今年はかろうじてシンガポールを上回ったが、ここまで低下しているとは思ってもみなかった。
次に、地域別の採択論文数の推移を図7に示す。2005~2010年頃は、日本は米国とトップ争いをしていた。ところが、2013年以降、急激に採択論文数が減少し、欧州、韓国、台湾に抜かれてしまった。中国およびシンガポールとはまだ差があるが、中国の投稿論文数が急増しており、今後いつ抜かれてもおかしくない状態であるといえる。
採択論文数の全体動向としては、米国が1位を維持しており、2位に躍り出た韓国が米国を追い上げる構図となっている。かつて2位だった日本が、欧州を抜いて再び韓国に追いつくのは、非常に困難だと思われる。
地盤沈下が止まらない日本半導体産業
以上、半導体の3大国際学会の一つであるVLSIシンポジウムにおいて、日本の投稿論文数と採択論文数が激減していることを示した。VLSIシンポジウム以外のISSCCおよびIEDMについては定点観測ができていないので、定量的なグラフを描くことができない。しかし、VLSIシンポジウムと同じような傾向にあってもおかしくないと推測している。もし、この推測が当たっているのなら、日本半導体産業の実力の地盤沈下が止まらない状態にあると思われる。
マスク氏は、日本人口の減少動向から「日本消滅」の危機を警告した。経産省は日本半導体産業のシェアが1988年でピークアウトし、シェアの低下が続くと2030年にゼロになるという危機感を持った。同じように、VLSIシンポジウムにおいて日本の投稿論文数や採択論文数の低下が続けば、いずれゼロになる危険性があると言える。