NEW
湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

日本の半導体産業、世界シェア・ゼロも現実味…10年単位で技術者育成すべき

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
【この記事のキーワード】, ,

 日本半導体産業のシェアの低下と、半導体の国際学会の論文数には、ある程度の相関があると思われる。どちらも半導体の実力の一端を示しているからだ。そして、これらの問題は、TSMCを熊本に誘致しただけでは解決しないだろう。では、どうしたら良いのか。

10年単位の計画で半導体技術者の育成を!

 2022年5月10日に第20代大韓民国大統領に就任した尹錫悦氏は、「半導体超強大国を目指し、50兆ウォン(約5兆2,236億円)規模の基金をつくる」「半導体分野で10万人の人材を育成する」ということを公約に掲げた。そもそも、韓国では最も優秀な人材がサムスンやSKハイニックスに集まるが、その人材を韓国が国を挙げて10年がかりで10万人増やすというのである。

 熊本にTSMCを誘致した日本でも、これを契機に半導体産業の復興を唱える識者が多いが、本当にそれを実行するには教育改革が必要である。何よりも、優秀な学生が半導体産業に行きたいという土壌をつくるところから始めなくてはならない。

 2021年初旬に半導体不足が発覚し、日本の基幹産業である自動車産業の足元が揺らぐ事態となった結果、突然「半導体は戦略物資」「半導体は経済安全保障上重要」「半導体は産業の心臓」などといわれるようになった。しかし、これまで放置してきた半導体の技術力が突然向上するはずがない。もし、日本の半導体産業をなんとかしたいのなら、韓国以上に10年単位で半導体の技術者を養成することを国策として実施するしか手段はない。

一筋の光明

 日本半導体産業に関する暗い話ばかりをしてきたが、一筋の光明がある。図8は、地域別の投稿論文数と採択論文数の状況を示している。日本は投稿論文数32件、採択論文数17件で採択率は53%となっている。

日本の半導体産業、世界シェア・ゼロも現実味…10年単位で技術者育成すべきの画像9

 図8を基に他国・他地域の投稿論文数、採択論文数、採択率をグラフにしてみた(図9)。確かに日本の投稿論文数と採択論文数は他国・他地域より少ない。しかし、日本の採択率53%は、米国48.5%、シンガポール44%、欧州38.9%、韓国33.9%、台湾26.5%、中国12.1%より高い。

日本の半導体産業、世界シェア・ゼロも現実味…10年単位で技術者育成すべきの画像10

 日本は国際学会に論文を投稿する土壌がやせ細ってしまった。しかしそれでもなお、クオリティの高い論文を書く技術者が、わずかながら残っている。そのような優秀な技術者が消滅する前に若い技術者を育成することができれば、日本の地盤沈下を止めることができるかもしれない。しかし、残された時間は多くない。政府や経産省には、正しい処方箋の作成と実行を可及的速やかに行っていただきたい。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

【お知らせ】

 『半導体不足+半導体製造停止に対する危機管理の羅針盤

ーウクライナ情勢 3M社フロリナート生産停止の影響ー』

と題するサイエンス&テクノロジー主催のセミナーを以下の通り開催します。

【日時】 7月14日(木)13:00~16:30

【会場】 東京・港区浜松町 ビジョンセンター浜松町  B1F M会議室

会場受講に加えて、ZOOMウエビナーによるLive受講、およびアーカイブ配信も行います。詳細は、以下のサイトをご参照ください。

https://www.science-t.com/seminar/A220714.html

●湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。

・公式HPは http://yunogami.net/

 

情報提供はこちら

RANKING

11:30更新
  • 連載
  • ビジネス
  • 総合