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藤和彦「日本と世界の先を読む」

コロナで露呈、深刻な「感染症専門医」不足が解消されない根深い理由

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

存在していなかった有事の仕組み

 感染症は国民の生命や暮らし、経済活動などに大きな影響を及ぼす。対策の強化は必要だが、新しい組織をつくるだけで万全になるわけではない。今回の新型コロナ対応で痛感したのは、感染症対策を平時モードから有事モードに切り替えようにも、その切り替えるべき有事の仕組みそのものがほとんどなかったことだ。

 医療供給体制の逼迫やワクチンなどの開発の遅れなど反省すべき点は多い。政府や地方自治体が現場の病院に対して強制的に「コロナ対応に当たれ」と指示できる権限がないことから、ほとんど実効性が上がらなかったことは記憶に新しい。政府は秋に予定される臨時国会に病院への指示権限の強化などを内容とする感染症法の改正案を提出するとしているが、現場の抵抗は依然として強く、予断を許さない状況が続いているという。

 緊急時にワクチンや治療薬の使用を特例的に認める緊急承認制度が5月に施行した。大きな前進だが、「作った仏に魂を入れる」ためにも塩野義の新型コロナの飲み薬が一日でも早く承認されることを願うばかりだ。 

 新型コロナが収束したとしても、今後さらに深刻な感染症が発生する可能性がある。動物由来のウイルス感染症「サル痘」の感染者が、従来継続的に発生してきたアフリカ諸国以外の29カ国で1000人を超えた。これまでのところ死者は出ていないが、世界保健機関(WHO)は警戒を強めている。

日本の感染症対策の最優先課題

 新型感染症のパンデミックは常に想定外の事態となることを覚悟しなければならない。臨機応変に対応するために必要なのは現場の力だが、残念ながら、日本の現場のマンパワー不足は深刻だ。2009年の新型インフルエンザ流行後の専門家会議が保健所の人員強化などの提言をまとめたが、事態は改善することはなかった。

 コロナ禍で「感染症の専門家」がマスコミに登場する頻度が急増した。平時に感染症科や総合内科、呼吸器内科などで勤務する感染症専門医は、パンデミックの際には所属する病院だけでなく地域全体の感染対策を主導できるスペシャリストだ。だが、日本では「感染症専門医が手薄だ」とかねてから指摘されている。日本感染症学会が認定する感染症専門医は現在約1600人だ。「その2倍の要員が必要だ」と言われながらも一向に増えない状況が続いている。感染症専門医になるためには医師免許を取得してから少なくとも8年間の研修が必要なうえ、診療報酬の増加にほとんど貢献しないため、病院経営にとって望ましい存在ではないからだ。

 感染症専門医を早期に増員できる仕組みを構築することが、日本の感染症対策の最優先課題なのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー 

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職

 

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