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「偉人たちの診察室」第20回・北条政子

精神科医が語る北条政子の“パラノイア”…被害妄想に取りつかれ源頼家ほか源氏一族を粛清

文=岩波 明/精神科医
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北条政子のなかの恐怖、不安、怯えが彼女をパラノイアに導き、源氏一族を粛清させたのではないか

 頼朝以前より源氏の一族は、親族あるいは一族での抗争をひんぱんに繰り返してきており、鎌倉時代の初期に繰り返された政変も、こうした一族の“血の因習”が拡大されたものだという見方もあるだろう。

 しかしこれまでに述べた通りあらためて振り返ってみると、多くの「政変」「謀殺」は根拠のない讒言から始まっており、その大部分は北条政子かその周辺が発信源なのである。本文には記さなかったが、頼朝の弟である源範頼に謀反の恐れありとして殺害されたのも【建久4(1193)年】、政子の讒言がきっかけであった。

 政子の標的は、対立する御家人だけでなく、源氏の一族、さらには自分の子ども、孫にも及んでいる。これは単に「政争」といってすむレベルではなく、政子は常に、ほかから攻撃される、危害を加えられて殺されるという恐怖心を持っていたように思われる。これはもう、被害妄想と呼んでいいものであろう。政子はまるで実態のないところに謀反のきざしがあると決めつけ、その敵を殲滅することを繰り返したのであった。

 かつて、精神医学において「パラノイア」という病名が使用されていた。パラノイアとは、一定の妄想、たとえば根拠薄弱にもかかわらず、他人から常に攻撃を受けている、などといった被害妄想にとらわれてはいるが、それ以外の面では常人と変わらない……という疾患である。現在の診断基準では、妄想性障害に相当する。被害妄想以外にも、嫉妬妄想の頻度も高い。

 北条政子の軌跡を振り返ってみると、彼女はパラノイアの症状を持っていたのではないかと考えると理解しやすい。パラノイアの根底にあるのは、恐怖と不安、怯えである。これが転じて他者への攻撃性となり、政子は身内を含め関係者を次々と亡き者としていったのだ。その不安は、彼女の死に至るまでおさまることがなかったようである。

 源氏の血族に対する恐れはさらに強く、政子によって源氏の嫡流が断絶したのだ……といってもいいすぎではないだろう。

(文=岩波 明/精神科医)

岩波 明/精神科医

岩波 明/精神科医

1959年、神奈川県生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。都立松沢病院などで精神科の   診療に当たり、現在、昭和大学医学部精神医学講座教授にして、昭和大学附属烏山病院の院長も兼務。近著に、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?~再考 昭和・平成の凶悪犯罪~』(光文社新書)、『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春新書インテリジェンス)、共著に『おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線』(光文社新書)などがあり、精神科医療における現場の実態や問題点を発信し続けている。

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