ビジネスパーソン向け人気連載|ビジネスジャーナル/Business Journal
彼らが弱気になっている背景には中国の雇用市場の急速な悪化がある。高成長を続けてきたハイテク分野の企業でさえ従業員のレイオフを実施し始めており、中国の4月の失業率は6.1%と政府目標(5.5%)を上回っている。16~24歳に限って見てみると、失業率は18.2%と跳ね上がり、公式統計を取り始めてから最悪の水準に達している。
「弱り目に祟り目」ではないが、若者たちの雇用状況はさらに悪化する可能性が高い。中国で今年夏に卒業する大学生(専門学校等を含む)は前年比167万人増の1076万人に達し、初めて1000万人の大台を超える見込みだからだ。
毎年のように新卒者の失業問題が取り沙汰されているが、今年は特にコロナ禍の影響で企業側の求人意欲が低く、卒業シーズン後の若年失業率が20%に達するとの試算がある(5月7日付日本経済新聞)。歴史上、最も就職が困難な年になることが必至の情勢だ。自分の仕事が5年後にどうなっているかわからず、「住宅ローンを返済できるほど稼げないのではないか」との不安を抱えた若者たちは、不動産価格がいくら下落したとしても、雇用状況が好転するまで住宅購入に手を出すことはないだろう。
以前から中国では若者たちの間で「結婚もせず、子供も持たず、家も車も買わない、できる限り仕事の量を減らして最低限の生活を送る」という寝そべり族が増えていると報じられてきた。だが、最近になってその上をいく「バイ・ラン(腐り族)」の存在が注目を集めつつある(5月31日付クーリエ・ジャポン)。バイ・ランとは中国語で「そのまま腐らせろ」という意味だ。中国のSNS「ウェイボー」では今年3月から腐り族に関する投稿が激増したという。モチベーションをなくし、生きる気力を失ってしまった彼らは、悪化する自らの状況を積極的に受け入れている。寝そべり族以上にニヒリスティックな精神の持ち主だといっても過言ではない。
激しい競争社会で疲弊した中国の若者たちの絶望感が、コロナ禍や経済の低迷などでさらに増幅されたことのあらわれなのかもしれない。だが、腐り族が今後大増殖するような事態になれば、中国経済の屋台骨までもが腐ってしまうのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)