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舘内端「クルマの危機と未来」

偽装カルテルまでしてディーゼル車を延命の裏に自動車の「不都合な真実」

文=舘内端/自動車評論家
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 実際は自動車排ガスによる大気汚染はモータリゼーションの進展していた米国で戦前から問題になっており、CO2による地球温暖化は1985年の世界会議(フィラハ会議)で問題になり、90年代に入るとこれらは同時に解決すべき問題となった。

 ところが、この2つは二律背反する問題だった。少し複雑だが、ディーゼルエンジンもガソリンエンジンも、燃費を良くしてCO2を減らすと排ガスが増えてしまうのである。

PMを減らすとNOxが増える

 燃費を良くするには、燃料をなるべく高温で素早く燃やす必要があるが、こうすると空気中の窒素が反応し窒素酸化物のNOxが増えてしまう。窒素は非常に反応しにくい物質だが、エンジンの中では窒素でさえも反応させてしまう高温となり、燃焼温度が高いほど効率が良く、燃費も良くなる。しかし、それだけNOxも増える。そして、このことが顕著なのがディーゼルエンジンなのである。

 一方、もうひとつの大気汚染物質である粒子状物質のPMは高温で燃やすほどに少なくなる。NOxを減らそうと低い温度で燃やすと、逆に燃え残りのガスが増え、PMも増加する。NOxを減らせばPMが増え、PMを減らせばNOxが増えるのだ。

ディーゼルを手放せなかった燃費規制

 ディーゼル車を手放せなかったもうひとつの理由がある。地球温暖化・気候変動をもたらすCO2の排出規制だ。いわゆる燃費規制である。EUは世界に先駆けて自動車のCO2排出規制を強めた。すでに実施されている2021年規制値は、95グラム/1キロメートルだ。1キロメートル走った時のCO2排出量を95グラム以下にしなさいというもので、実燃費に換算するとリッター24.4キロメートルとなる。

 しかもメーカーが販売した自動車の平均値だから、達成するにはすべてのモデルの原動機はもちろん、車体も含めた大幅な見直しが必要だ。

4500億円の罰金

 さらに罰金額がすごい。1グラムオーバーしただけで1台当たり95ユーロ(1万2700円)の罰金だ。VWのようにEUで350万台近く販売するメーカーだと、年間の罰金は450億円となる。10グラムもオーバーしてしまうと4500億円だ。そして1台当たりの罰金による販売価格の上乗せ額は12万7000円となる。そうなれば競争力はゼロで、ブランドイメージはマイナスである。1グラムでも減らせという命令が開発部門に下ったとしてもおかしくない。

 規制をクリアするには、ガソリン車よりも燃費の良いディーゼル車のほうが都合がよかった。ディーゼル車はガソリン車にくらべて燃費が良く、CO2排出量は3%ほど少ない。だが、たかが3%少ないだけでメーカー全体のCO2排出量を減らすには、ディーゼル車を大量に販売する必要があった。しかし、排ガスのうちNOxとPMに関しては、とてもガソリン車のクリーン度には及ばず、排ガス規制をクリアするのは困難だった。ここに排ガス偽装の種がまかれた。

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17:30更新
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