伝統的な金融機関がダメージを被る可能性も
現在起きている暗号資産のパニック売りが、2008年の金融危機につながったデリバテイブ(金融派生商品)の売りを彷彿させる点にも注目している。世界の金融経済は幸いにもこれまで暗号資産市場の悪影響を受けることはなかった。運用の主役が一般投資家だったからだ。
暗号資産関連企業が銀行口座を開設するのに苦労していたのはそれほど昔のことではないが、暗号資産と伝統的な金融システムの融合はこのところ急速に進んでいる。暗号資産業界に合わせたサービスを積極的に提供する銀行も存在する状況をかんがみると、今後伝統的な金融機関がダメージを被る可能性は高まっていると言わざるを得ない。
暗号資産市場が世界の金融経済に影響を及ぼせる規模にまで拡大した点も見逃せない。昨年11月のピーク時に約3兆ドルとなった暗号資産全体の時価総額は、米国のGDP(23兆ドル)と比べればたいしたことはないかもしれないが、金融の世界では大きな存在感を有するようになっている。ピーク時の時価総額は米国の社債市場市場(53兆ドル)の5%を超えており、深刻な金融危機を引き起こすのに十分な規模なのだ。
2008年のリーマンショックの原因となった債務担保証券(CDO)の市場規模は2000億ドル程度だったが、高レバレッジ商品だったことから、裏付けとなっていた不動産市場が下落し始めると、信用市場全体の破綻を招く引き金となってしまった。
2008年の金融危機の前兆現象は、追加証拠金の要求に応じられなくなった業者が相次いだことだが、同様の事態は暗号資産業界で既に起きている。リーマンショックのひそみにならえば、テラの急落が暗号資産の世界におけるベアー・スターンズだとすれば、リーマン・ブラザーズの破綻のような状況が間近に迫っているのかもしれない。暗号資産の急落が金融危機の引き金にならないことを祈るばかりだ。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)