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片田珠美「精神科女医のたわごと」

安倍氏銃撃の容疑者、人生の不調を宗教団体のせいにする他責的傾向…自分を例外者扱い

文=片田珠美/精神科医
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 職を転々としたり、職場でトラブルを起こしたりするのは、母親が宗教にのめり込んで自己破産したことと直接関係があるのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。それでも、山上容疑者が自分の人生がうまくいかないのは、母親が入信した宗教団体のせいだと思い込んでいたとすれば、何でも社会や特定の集団のせいにする他責的傾向が強いといわざるをえない。

 このように他責的傾向が強いのは、無差別殺人犯にも認められる特徴である。今回の犯行現場になった演説会場で、山上容疑者が安倍氏に近づくことができなかったら、復讐の矛先をもう1度宗教団体に向け変えて無差別大量殺人をもくろんでいた可能性も否定できない。

<例外者>特有の特権意識

 山上容疑者には同情すべき点もないわけではない。幼い頃に父親を亡くし、母方の祖父の家で暮らすようになったものの、その祖父も他界。母親は1999年に祖父の家を売り払っているが、それはちょうど山上容疑者が地元の名門進学高校を卒業した年だ。しかも、宗教団体に多額の寄付をしたせいで、母親は2002年に自己破産。この年に山上容疑者は自衛隊に入隊している。

 こうした一連の経緯から、経済的に苦しい一家だったのではないかという印象を受ける。もしかしたら、そのせいで大学進学を断念、あるいは大学中退を決意しなければならない事情もあったのかもしれない。

 こういう家庭環境で育った人のなかには、「不公正に不利益をこうむったのだから、自分には特権が与えられてしかるべきだ」と思い込み、自分には「例外」を要求する権利があるという思いが確信にまで強まっているタイプが存在する。このようなタイプをフロイトは<例外者>と呼んだ。

 この手の願望は、誰の心の奥底にも程度の差はあれ潜んでいるかもしれない。しかし、そういう願望を抱いても、名家の御曹司か大金持ち、よほどの美貌か図抜けた才能の持ち主でもない限り、許されるわけがない。そこで、自分自身の願望を正当化するための理由が必要になる。

 それを何に求めるかというと、ほとんどの場合自分が味わった体験や苦悩である。<例外者>は、自分には責任のないことで「もう十分に苦しんできたし、不自由な思いをしてきた」と感じ、「不公正に不利益をこうむったのだから、自分には特権が与えられてしかるべきだ」と考える。

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