ビジネスパーソン向け人気連載|ビジネスジャーナル/Business Journal

NHKの土曜ドラマ(土曜夜10時枠)で放送されていた『空白を満たしなさい』が、最終回を迎えた。
2012年に刊行された平野啓一郎の長編小説を映像化した本作は、ホラーとサスペンスの設定を用いることで「自殺」という難しいテーマに挑んだ意欲作となっている。
物語は土屋徹生(柄本佑)が会社で目を覚ます場面から始まる。帰宅すると、息子が急激に成長していることに驚く徹生。一方、妻の千佳(鈴木杏)は徹生の姿を見て、おびえるような表情を見せている。
やがて、家に保健所の男が現れる。男は、徹生が会社の屋上から3年前に転落死したことを伝えた後、生き返ったのだと言う。
全国では「死者が蘇る」という社会問題が多発しており、彼らは“復生者”と呼ばれていた。複生者はいわゆるゾンビだが、既存のゾンビ映画のように人間を襲うモンスターではない。ある日、突然、肉体が蘇り、かつてと同じように日常生活を送ろうとするだけなのだが、一度死んだ人間が蘇るだけで、さまざまなトラブルが起こることが描かれる。
一度死んだ復生者は、戸籍から抜けるために仮の戸籍を作る必要がある。また、徹生が死んだときに保険会社が支払った生命保険の保険金は、徹生が生きているとわかるや否や、全額返金することを要求される。
もちろん、会社の籍はすでにないため、新たな仕事を探すことになる。しかし、就職面接で復生者だと知られると、偏見の目に晒され、感染症患者のような扱いを受けてしまう。
また、復生者が集まる「復生者の会」に徹生が向かうと、死者が複生者として蘇る理由を「死後の世界」と関連させて語ろうとする霊能者が登場し、復生者たちの不安を煽る。
復生者が生まれる理由については、劇中では謎となっている。そのため、さまざまな仮説が飛び交い、陰謀論やオカルト的言説と簡単に結びついてしまう。復生者という設定こそ荒唐無稽なものだが、上記のような復生者に対する社会のリアクションはとてもリアルだ。
警備員「佐伯」を阿部サダヲが怪演
一方、屋上から転落死した理由を妻の千佳は自殺だと思っており、徹生に何か悩みがあったのなら、どうして気づいてあげられなかったのだろうか? と後悔に苛まれていた。
自殺の理由に心当たりがない徹生は、生前に自分につきまとって嫌がらせをしていた警備員の佐伯(阿部サダヲ)という男のことを思い出す。徹生の死後、妻にもつきまとっていたことを知った徹生は「自分は佐伯に殺されたのではないか?」と考えるようになっていく。
阿部サダヲの怪演が印象に残る佐伯は、アメリカン・コミックス『バットマン』の主人公・バットマンにつきまとう悪役・ジョーカーのような悪魔的存在で、仕事も家庭も満たされている徹生の人生を崩壊させようと、不愉快だがどこか哲学性のある問いかけを投げかけてくる。
近年、職場、家庭、趣味の場といったあらゆる共同体から阻害され孤立した結果、失うものは何もないと感じた人間が、精神的に追い詰められて無差別殺人を行う事件が増えている。
『テレビドラマクロニクル 1990→2020』 昭和の終わりとともに世紀末を駆け抜けた1990年代の旗手・野島伸司。マンガ・アニメとの共鳴で2000年代の映像表現を革命した堤幸彦。若者カルチャーの異端児から2010年代の国民作家へと進化を遂げた宮藤官九郎。平成を代表する3人の作品史をはじめ、坂元裕二、野木亜紀子などの作家たちが、令和の現在に創作を通じて切り拓いているものとは――? バブルの夢に浮かれた1990年からコロナ禍に揺れる2020年まで、480ページの大ボリュームで贈る、現代テレビドラマ批評の決定版!
