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高級スニーカー&サンダルが2年でボロボロ…ソールの加水分解を防ぐお手入れ術

文=A4studio
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高級スニーカー&サンダルが2年でボロボロ(「gettyimages」より)
「gettyimages」より

 5月8日にあるTwitterユーザーが写真とともに投稿したつぶやきが、6.9万の「いいね」(6月29日現在)を記録するなど、大きな注目を集めている。写真には、まるで炭を砕いたかのように無残に崩れたGUCCIのサンダルが写っており、ツリーには「箱を開けた瞬間ショックで鼻血吹きそうでした」との悲痛な想いが綴られていた。

 写真だけでも衝撃なのだが、なんとこのサンダルは購入から2年しか経っていないのだそうだ。つぶやきに寄せられたリプライには、悲劇の原因が「加水分解」なる現象にあると指摘する声も多く、この現象がもたらす状態にツイートを見た多くの人がショックを受けていた様子。

 そこで今回は、スニーカーのリペアなどを手掛けるスニーカーアトランダムの城所匠氏に取材。加水分解がどのように起きるのかや、購入者側ができる対策などについて解説していただいた。

デザイン性と加工のしやすさと引き換えに起きてしまう現象「加水分解」

 まず「加水分解」とはどういう現象なのか説明していただこう。

「加水分解というのは、化合物が水と反応することによって起きる分解現象のことです。よく、時間の経った輪ゴムがベタベタになり、もっと経つと弾力が弱くなってボロボロと崩れてしまうことがありますが、あれがまさに加水分解された状態です。これは経年劣化のひとつに数えられる現象でもありますね」(城所氏)

 こうした現象はサンダルやスニーカーでよく起きる現象なのだそうだ。

「なぜサンダルやスニーカーに多いかというと、ソール(靴底)によく使用されているポリウレタンという素材が、この加水分解に弱い素材だからです。ポリウレタンは引っ張られる力や摩擦力に強く、加えて弾力性もあり軽量なので、人体の重さや歩行にかかる靴底の変形に非常に強い素材です。また、簡単に成形できるので高いデザイン性が求められる靴業界では重宝されています。

 しかしこうした特徴とは裏腹に、空気中の水分を吸収しやすいという弱点がある素材なのです。水分を吸いやすいということは、イコール加水分解が加速しやすいことにほかなりません」(同)

 では、なぜそんな経年劣化に弱い素材を多くのメーカーが使用し続けているのか。

「メーカーが靴を作るときにデザインしやすく、かつ履きやすいので購入者受けがいいからだと思います。ナイキのスニーカーを例に挙げるとわかりやすいでしょう。ナイキは多くの製品のソール部分に、衝撃を吸収する『エアシステム』というものを導入しています。これは窒素ガスが入ったカプセルをミッドソールに埋め込むことで、軽量化とクッション性を両立させた技術なのですが、このカプセルを埋め込むときにポリウレタンを使うと非常に成形しやすいのです。さらにポリウレタンは柔らかさがあるので、カプセルの効果も足裏に伝わりやすいというメリットもあります」(同)

 冒頭で紹介したツイートに寄せられたリプライには、こうした現象は「コンバースとVANSのスニーカー以外は必ずなります」といった意見も寄せられていたが――。

「必ずしもそうとはいえないですが、ポリウレタンの素材を多く使用しているブランドとそうでないブランドがあり、確かにコンバースとVANSのスニーカーはあまり使用しない傾向があるというのは事実です。

 というのも、コンバースはもともとバスケットシューズで伸びたブランドなので、地面との吸着性の高いゴム系の素材を靴底に使っていました。そのゴムをつける際に熱圧着という方法を使うのですが、この方法をポリウレタンでやると溶けてしまうのです。VANSに関しては、スケボーシューズで伸びたブランドなので、靴底が重たいほうがボードのコントロールが効きやすく、軽いポリウレタンはあまり好まれなかったのです」(同)

サンダルやスニーカーは「高価=経年劣化にも強い」わけではない?

 ポリウレタン以外の素材で加水分解は起きないのかも気になるところだ。

「こういうと少々ショッキングかもしれませんが、ポリウレタン以外でも、現状ほとんどのサンダルやスニーカーのソールに使われている素材で、加水分解はゆっくりと進行します。もっといえば、工場で生産された段階から空気中の水分を吸うので、誕生してすぐに加水分解は始まっているのです。

 そうはいっても乾燥した日などに干しておけば、溜まった水分くらい簡単に飛んでしまうのでは? とお考えの人もいるでしょう。けれど、特にポリウレタンにいえることですが、一度水分を吸収してしまうと外に出て行きづらい性質があるので、加水分解が進みやすいのです。また、加水分解を加速させるのは空気中の水分だけではありません。靴を履いたときに足裏から出る汗も大きな要因のひとつなのです」(同)

 ツイートにあったGUCCIのサンダルの惨状は衝撃的だったが、購入者からすると高価なスニーカーやサンダルを購入すれば、高い耐久性が約束されていると思いがちだろう。だが、城所氏によると「値段が高いから丈夫」とは一概にはいえないのだとか。

「さまざまなデザインが施される分、生産コストもかかるので、そもそもポリウレタンを使ったソールというのは、値段が高い部類の靴・サンダルだと思います。逆に安いスニーカーなどは、靴底の加工が難しいゆえにデザインがシンプルになりがちなエチレン-酢酸ビニール共重合樹脂、英語の頭文字を取ってEVAと呼ばれる素材を使っています。皮肉なことに加水分解に対する耐久性という意味では、安価なスニーカーによく使われているEVA製の靴のほうが良いというわけです」(同)

避けられぬ宿命、加水分解と賢く付き合う方法をプロがレクチャー

 購入後に加水分解の進行を遅らせるために、心がけておくべきことはあるだろうか。

「まずできることは、きちんと履くことです。ポリウレタンのソールはスポンジのような性質を持っているので、人が履いて圧力を加えることで、程よく水分が染み出します。3足ぐらいをローテーションして履いていくと、適度に水分も抜け、長い期間、スニーカーを楽しむことができるでしょう。逆におすすめできないのはソールに防水スプレーをすることです。外からの水分侵入は防げますが、履いたときに水分が逃げず、足裏の汗など吸収するばかりになってしまうからです」(同)

 最後に城所氏は、スニーカーやサンダルは使用による汚れで、すぐ買い換えることになる消耗品だと覚悟する心構えでいてほしいと語る。

「スニーカーでいうと、加水分解でソールがダメになってしまうのは、環境にも大きく左右されますが、通常で5年、よく手入れをしても10年ほどと言われています。ですからほとんどの方は加水分解でダメになる前に、汚れなどの理由で別の靴に買い替えているでしょう。メーカー側が加水分解についての周知をあまりしていなかったり、問題を改善する研究が進みづらかったりするのは、こうした消費のリズムが大きいからではないでしょうか」(同)

 加水分解が起きるからソールがポリウレタン製の商品は購入しないほうがいいというわけでは決してなく、サンダルやスニーカーはそもそもそういう性質なのだと理解する必要があるのだろう。消耗品という認識を持ち、存分に味わうという購入者側の姿勢が、快適なスニーカー・サンダルライフに必要なのかもしれない。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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