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在宅勤務終了→出社強制で家庭崩壊の危機…子どもが不登校で自身もメンタル不調

文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表
在宅勤務終了→出社強制で家庭崩壊の危機…子どもが不登校で自身もメンタル不調の画像1
「gettyimages」より

 コロナ禍ですっかり定着した在宅勤務でしたが、3月にまん延防止等重点措置が全面的に解除された後は、再び満員電車で通勤しオフィスで仕事する人が増加し始めました。そのなかで2年前に始まったコロナ禍で環境が劇的に変化したことから、仕事と家庭のバランスのとり方が変わり、新たな環境への適応ができず心身ともに追いつかないケースも目立っています。

 42歳のA子さんは夫と中学校3年、小学校4年生の娘と4人暮らし。コロナのため会社指示で在宅勤務となっていましたが、今年4月にまん延防止等重点措置が明けて出社となりました。本格的に出社するのはかれこれ2年ぶりです。

 中学3年の長女は、中学校入学からすぐにコロナ緊急事態宣言。小学校とは違う慣れない中学生活に加えて、急に仕立てられたオンライン授業では、当初授業ができなかった分を取り戻そうと、学校側が課題を次々と五月雨式に投げてきます。リモート授業で友達もできず、長女は中学生活に息切れを感じ、もともと完璧主義な性格ゆえ次第に追い詰められていたようです。いよいよ昨年の夏休み明けから不登校になってしまいました。

 在宅勤務であった頃のA子さんが「遅刻してもいいから」と家からなんとか送り出し、今年に入り少しずつ登校するようになっていた矢先のA子さんの勤務形態の変更。出社になれば7時半には家を出なければ自分は始業に間に合わないため、長女が学校に出て行くまで家にいることができなくなりました。

 案の定、出社が始まると長女は学校に行かない日が増えてしまい、1学期が終わる頃にはほとんど行かなくなってしまいました。さらに、不登校となると周囲の目が気になるので、家からほとんど出なくなり、たった一人、家で過ごすことが多くなり、ますますふさぎ込むようになってしまいました。

 その様子を見てA子さんも、うつうつと眠れない日が増えていました。「在宅勤務が続き娘は明るくなってきていたのに」「自分がそばにいることで、この子は普通の生活ができるようになったのに」「自分が仕事などしていなければ、もっと子供のケアをできるのに」――。少しずつ自分を責めることも増え、頼りに感じていた夫も在宅勤務でイライラからでしょうか、「テストは絶対受けろ」「そうでないなら学校をやめろ」などと娘につらく当たります。

 さらに次女まで登校が面倒な日は学校に行かなくなってしまい、A子さんはどうしたらよいか途方に暮れ、体調を崩してしまいました。

 そして訪れた主治医からは「在宅勤務なら、うまくいくかもしれないね」との意見もあり、在宅勤務でも十分仕事の成果を上げていた自負のあるA子さんは「なんとか在宅勤務を続けたい」と上司に相談をしました。

 しかし、会社としてはコロナの措置以外の在宅勤務は認めていないという原則的な答えです。A子さんは心の整理ができず、涙が止まらなくなりました。

会社によって異なる在宅勤務対応

 在宅勤務を導入していた企業でも、その後の対応はさまざまです。業種によっては在宅勤務で効率が上がり、成果が上がっている企業もあります。こんな場合は在宅勤務を続けていくのでしょうが、現場を持っている企業などは、どうしても職場への出勤を重視します。 また、同じ企業内でも、管理部門など職種によってはわざわざ出社しなくても、効率が維持できる場合もあるのでしょう。

 しかし企業は社員間の公平性などを重視しており、一律の勤務形態をとりたがります。 A子さんもそんな企業ポリシーに基づき出社を求められており、そこに割り切れなさを感じています。参考までに、下図は国土交通省が調査した職種別の在宅勤務の割合です。

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 また、以下は国土交通省が調査した、テレワークの継続意向などです。

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「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」(東京商工会議所)に筆者加筆

 先ほどのA子さんは結局、産業医である私と面談しました。「在宅勤務なら勤務できるから仕事をしたい」とおっしゃっていましたが、すでに不眠や気分が不安定などの精神症状がありましたので、出社勤務はもとより、勤務自体も不可能と判断し、産業医としては休職をすすめました。

在宅勤務は救世主か?

 A子さんのように、出社勤務できないけど家でなら仕事できるという方が最近とても増えています。現在、会社に出社指示を出されて困っている社員から相談されている内容について多いのは以下のようなものです。

・未就学児の子育てをしている

・小中学生の不登校の子供をもっている

・親の在宅介護をしている

 会社の制度には、子育て期間中などには時短勤務などの勤務形態もあるのですが、時短勤務ではなく、通勤時間が節約できる分を利用して在宅でフルタイム勤務がしたいという声も多くあります。出社となると早く帰宅しなくてはならず残業はできないが、在宅勤務に切り替えることで夕方から21時頃までの子育てにとってのゴールデンタイムの後なら残務も可能で、より効果的に仕事ができるという人もいます。

 このように私のところに相談にくる社員は、この2年での家庭の環境変化に伴い、「在宅だから勤務を継続できる」という人が多くいらっしゃいます。本来なら休職を余儀なくされた状況下で、期せずして与えられた「在宅勤務」という暫定的な就業環境下でなんとかやりくりしていた人です。しかし、出社勤務が義務化され、その環境が変わりつつある今、メンタル不調に追い込まれ会社に在宅勤務の継続を求めるという状況になっているのです。

 その一方で、在宅勤務によるメンタルヘルス不調者の面談もこの1年で急増しています。当初は心地良く在宅勤務していたのに、だんだん不眠や気力の低下が目立ってきた、といった訴えです。そのため、医師としては全面的に在宅勤務に賛成というわけではありません。もちろん、それぞれの社員の私生活での役割の下、一定のルールを守りながら実施するのであれば、企業と社員双方にとって在宅勤務は有益なものといえるでしょう。

 家庭の事情はさまざまであり、会社がそのすべてに配慮していては始まりませんが、一人でも多くの人が退職を回避し労働市場から離れて行かないよう、また追い込まれてメンタル不調による休職にならないよう、会社にも予防的な柔軟な対応が求められているのではないでしょうか。

(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

矢島新子/産業医

矢島新子/産業医

矢島新子
山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。
株式会社ドクターズヘルスケア

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