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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

米国CHIPS法等の中国規制厳格化で、日本・韓国の半導体関連メーカーが「死ぬ」?

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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中国への規制は続く

 さらに米国は、EDAメーカーのSynopsys、Cadence、Siemens(元Mentor)に対して、中国へのソフトの提供を禁止した。これによって、約3000社もある中国の設計ファブレスのビジネスが棄損される。当然、そのファブレスから生産委託を受けていたSMIC、TSMC、UMCなどのファウンドリーのビジネスも消滅し、そこに装置や材料を供給していた企業のビジネスも消滅する。

 加えて米国は、AI半導体として使われるNVIDIAのGPU(画像プロセッサ)やAMDのCPUについても、中国への輸出を禁止した。NVIDIAとAMDは、主としてTSMCに生産委託していたため、その受託生産のビジネスが縮小するとともに、当然のことながら、その生産に使われる装置や材料のビジネスも棄損されることになる。

 しかし、それにしても、米国はなぜ、ここまで徹底的に、(韓国籍のメモリ工場を含めた)中国の半導体産業を叩くのだろうか? 韓国や台湾の半導体メーカー、および日米欧の装置と材料メーカーにとっては、迷惑この上ない規制なのだが。

米国が中国への規制を厳格化する理由

 もともと、2015年に制定された「中国製造2025」の政策の目的として、「軍事技術と宇宙産業で米国を凌駕する」という内容が記載されていた。この目的をみると、どうしたって米国は中国を叩きたくなるだろう。実際、5Gの通信基地局で世界を制覇しかけていた中国のファーウェイに対して、これでもかと徹底的な規制を行い、ファーウェイをほぼ壊滅させてしまった。

 次に、ELに載せたはずのSMICが7nmの開発と生産に成功してしまった。米国は、これを断じて許すことができないだろう。そのため、16/14nm以降の装置の輸出を禁止し、ArF液浸の輸出も止めようとしている。

 さらにもう一つ、米国が中国を叩く理由がある。それは、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関係していることである。

中国のロシア向けの半導体輸出量が急増

 ロシアがウクライナへ軍事侵攻してから7カ月が経過しようとしている。いまだ、この悲惨な戦争が止む気配がない。そして、この戦争に対して、中国はロシアとは一線を画しているという態度を取ろうとしているが、どうも胡散臭い。中国がロシアへ物資を供給しているのではないかという疑念は、どうしても拭い去ることができないからだ。

 この戦争を、半導体の視点から見てみよう。さまざまな軍事兵器には、半導体が必要である。しかも、高性能な半導体が必要不可欠であろう。これを誰が設計し、生産しているのだろうか。調べてみると、ロシアにも半導体メーカーがある(図5)。Baikal ElecrtonicsとMoscow Center of SPARC Technologies(MCST)は設計ファブレスで、16nmのCPUを設計する能力があるという(日本より設計能力が高いじゃないか!)。

米国CHIPS法等の中国規制厳格化で、日本・韓国の半導体関連メーカーが「死ぬ」?の画像6

 さらに、Micron Groupは、65nmレベルの半導体を生産できるファウンドリーである。しかし、残念ながらMicron Groupは、Baikal ElecrtonicsとMCSTが設計した16nmのCPUを生産することはできない。

 では誰が生産しているかというと、TSMCとSMICであるようだ(図6)。ここで、台湾(つまりTSMC)は、ロシアの軍事侵攻が始まった途端に、ロシアへの半導体の輸出を停止していることがわかる。

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 一方、台湾(TSMC)が輸出を止めた直後から、中国のロシアへの半導体輸出額が急拡大している。この輸出額はロジックとメモリの合計値で、恐らくロジックはSMICが生産しているのだろう。では、メモリは誰が生産しているのか? NANDは紫光集団傘下のYMTCかもしれない。また可能性としては、サムスン電子の西安工場のNANDが含まれていることは否定できない。加えて、中国はDRAMをまともに生産することができないので、もしかしたら、SKハイニックスが無錫工場で生産したDRAMが含まれているかもしれない。

 米国が中国の半導体産業を徹底的に叩くのは、中国がロシアに半導体を大量に輸出していることにあると考えられる。そして、その半導体の中に、サムスン電子とSKハイニックスのメモリが含まれているとしたら、米国の厳しい規制は韓国のメモリ工場にも及ぶだろう。

 もし、米国が韓国籍のメモリメーカーに対しても、16/14nm以降の装置とArF液浸の輸出を止めてしまったら、韓国のメモリ工場は本当に「死ぬ」。それと同時に、日米欧の装置と材料ビジネスも消滅する。そうなると、戦争を止めるためとはいえ、半導体業界は事態は極めて深刻な事態に陥る。今後どうなるか、注視していきたい。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

湯之上隆/微細加工研究所所長:外部執筆者

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。


・公式HPは http://yunogami.net/

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