ただ、単純に財政健全化目標をなくすことで国債の格下げが起きれば、影響は無視できない。その観点からすると、財政健全化目標の完全撤廃は行き過ぎだろう。しかしながら、ガラパゴス化した日本の財政健全化目標が、財政金融政策や経済の正常化を進める上での支障となってはならない。
実は、PBとGDPギャップの連動性は高く、経済が正常化すれば自ずと財政も健全化するといった関係がある。実際、1990年代後半以降のPBと内閣府版GDPギャップの関係を見ると、非常に連動性が高いことがわかる。そして、PBにおける2010~2013年の下方乖離は民主党政権によるアンチビジネス政策、2015~2019年の上方乖離はアベノミクスによるプロビジネス政策が影響していると推察されるが、考え方次第ではGDPギャップ対比で財政を引き締めすぎた可能性も示唆される。
このため、当面はGDPギャップをプラスにすることを最優先して、財政健全化目標を見直し、新たな「財政目標」を導入することも検討に値しよう。そして、財政目標は「コアコアCPI+2%のインフレ率」「中央銀行保有分を除く政府債務残高GDP比の安定」「財政支出の有効性」の3つが適当と思われる。
国際標準的な統合政府の考え方に基づけば、インフレが行き過ぎる状態こそが財政が不健全であることになるため、国内需給に関係ないエネルギーを除くコアコアCPI+2%で安定化させるインフレ目標は「健全化」の意味も含んでいる。
また、現在の「政府債務残高対GDP比の安定的引き下げ」という財政健全化目標では、無理に下げても民間資産を過度に減らすことにもなりかねない。多くの海外主流派経済学者が指摘しているとおり、中央銀行保有国債は政府が利子を払っても、最終的に国庫納付金で戻ってくる。このため、中央銀行保有分を除いた比率を安定化させることも検討に値しよう。さらに、「支出の有益性」を掲げるのは、いくら財政支出をしても需要が増えなければ意味がないためである。
その後、GDPギャップのプラスが達成できれば、3つの「財政目標」に「(GDPギャップがプラスになってから)数年以内にPBの黒字化を目指す」といった財政健全化目標を加えてもいいのではないか。GDPギャップが+15兆円の需要超過となる局面を迎えれば、財政はまず歳出削減、それでも足りなければ増税し、健全化に向かってもいいだろう。
内閣府版GDPギャップが+15兆円の需要超過に近づけば、CPIのインフレ率も目標の+2%に近づく。そうなれば自然と金融政策も出口が見えてくるだろう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)