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梅毒パンデミックの発生が現実味…気づかぬうちに感染→拡散させる恐れも

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
梅毒パンデミックの発生が現実味
「Getty Images」より

 2022年における梅毒の感染者数が全国で1万人を超え、1999年に集計が開始されてから過去最多となった昨年の7875人を大きく更新している。昨年から現在までの感染拡大のスピードは異常でもあり、このままでは“梅毒パンデミック”が起きる可能性すらある。

 梅毒パンデミックを阻止するために社会がすべきことは何か、くぼたクリニック松戸五香院長の窪田徹矢医師に聞いた。

梅毒の怖さは進行に気付きにくいところ

 江戸時代には“不治の病”と恐れられた梅毒だが、1943 年にペニシリンによる梅毒の治療に成功してからは治療できる疾患となった。しかし、放置すれば症状は全身に広がり死に至ることもある、怖い感染症である。梅毒は5類感染症に分類され、診断した医師は保健所に7日以内に届け出ることが義務付けられている。

「実際に診察していて、梅毒の感染が増えていると実感しています。梅毒の疑いで受診する患者さんは、週に数名はいらっしゃる状況です。梅毒の感染者が全国で1万人を超えたと報道されていますが、感染がどこで起きたか特定できない患者さんもいるので、実際の数はもっと多いと考えています」

 梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)を病原体とし、粘膜から感染する性感染症であり、感染した時点から3週間前後の潜伏期間を経て発症する。発症後の梅毒の症状は、3週間後、3カ月後、3年後と変化し、順に第1期〜第4期へと進行する。進行に伴い、一時的に症状が消える時期があるため、自己判断で放置して再び症状が現れ、慌てて医療機関を受診するというケースもある。

「梅毒に感染すると、第1期では、陰部や口内粘膜や咽頭粘膜に硬結という痛みのない“しこり”ができます。多くの患者さんが、この段階で受診し、梅毒と判明します。しかし、硬結は放置していると3週間程度で消失するため、気付かぬまま第2期に進行する方も少なくありません。第2期の代表的な症状は、梅毒性バラ疹です。1~3cmほどのピンク色のバラの花びらのように見えることからバラ疹と呼ばれ、体幹を中心に顔や手足にできます。バラ疹が出てから受診する方も多くいらっしゃいます。バラ疹も放置すれば数週間で消失しますが、多くの患者さんが第1~2期で梅毒とわかり、治療を開始します」

 梅毒の治療法も確立された現代で第3期、第4期に進む例は極めて稀と考えられるが、進行すれば症状は全身に及び、命を脅かすこともある。

「治療法が確立している現代では、第3期の梅毒を診断した経験がある医師は非常に少ないと考えられますので、診断が難しい可能性もあります。第3期まで進むと全身症状となり、回復に時間を要しますので、早期に治療をすることが重要です」

 早期治療が重要ではあるが、そもそも感染しないことが大切である。しかしながら、昨今の感染拡大の状況を鑑みると、性リテラシーの低さが大きな原因といえるだろう。

「不特定多数との性行為は、梅毒に限らず性感染症の感染リスクが大きいといえます。一部報道などでコロナ禍にマッチングアプリの利用率が増加しているといわれるように、アンダーグラウンドな出会いによって、性行為へのハードルが低くなってしまったのではないかと感じています」

 窪田医師が指摘するように、2021年のマッチングサービス市場は768億円だったが、さらに市場が伸びており、利用者は増加している。

 梅毒の感染者を年代別にみると、女性では20代がもっとも多く、男性では20~50代に広がっている。“パパ活”などの増加を反映した結果と捉えることができる。

「本来であれば、学校教育で性リテラシーを学ぶ機会があるべきですが、日本では性教育に消極的な傾向にあります。若い女性が、パパ活などでお金がもらえるからと性行為に応じてしまう一方で、中高年の男性が感染予防などに無責任だとすれば、ある意味、女性は被害者といえると思います」

 性リテラシーの向上が梅毒や性感染症の蔓延を防ぐ一番の手立てであり、国はなんらかの政策を講じるべきだろう。

梅毒パンデミックを防ぐ方法は?

 梅毒パンデミックの不安を感じるほどの感染状況であり、さらなる拡大を防ぐためには、検査、治療、感染予防を徹底するほかない。

「やはり、不特定多数との性行為がある方は定期的に検査をしていただき、感染が判明した場合には速やかに治療をしてほしいと思います」

 梅毒の治療は、抗生物質のペニシリンを内服することが基本であり、進行の程度により服用期間が異なる。

・第1期梅毒:2~4週間

・第2期梅毒:4~8週間

・第3期以降:8~12週間

 それぞれ治療期間が長いため、根気よく継続することが重要である。

「最近では、2021年9月に承認された持続性ペニシリン製剤のステルイズ筋肉注射があり、1回の筋肉注射で治療が完了するため、患者さんにとって負担が少ない治療といえます。しかし、現在は供給が滞っており、梅毒の治療は抗生物質の内服が基本となっています」

 性感染症は潜伏期間があり、感染後もしばらくの間は無症状である。その間に性行為を行えば、感染を広げる結果となる。

「コンドームが性感染症の感染予防に有効ではありますが、オーラルセックスなどの粘膜同士の接触があれば感染するリスクは高くなるので、粘膜の接触を避けることが重要です」

 梅毒や性感染症に関して不安がある人は、最寄りの医療機関に相談してほしい。

(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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