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共同研究で高評価…メディアに報道されてブレイク
この間、耐え忍んでいたわけではない。カカオに含まれるポリフェノールは苦くて渋いので、課題を解決するため世界中のカカオを研究、あまり苦くないカカオも探したという。

潮目が変わったのは2014年だ。愛知県蒲郡市と愛知学院大、そして明治という産官学の共同研究で臨床実験を行った。具体的には蒲郡市内外に在住する347名(45~69歳)に「高カカオチョコレート(カカオ豆由来の成分が70%以上のチョコレート)を1日25g、4週間にわたり摂取」してもらった。臨床者の摂取前後のデータを測り、検証した。
その結果、高血圧の人は血圧が下がったり、善玉コレステロール(HDL)の血中濃度が上昇したりするなどの効果が認められた、という。これを2015年にメディアが「カカオ70%以上の高カカオチョコレートの健康機能性」として報道すると、「チョコレート効果」も脚光を浴びるようになる。同年の売り上げは低迷期の2010年に比べて約10倍となった。
現在は紙箱(標準12枚入り)だけでなく、大袋(同22枚入り、45枚入りなど)もあり、味もアーモンドやマカダミアのナッツタイプを用意するなど、さまざまな喫食シーンに対応している。前述したように主要支持層は50代以上だが、パウチタイプだけは違う動きをする。「ほどよい苦みと、ちょうどよい甘みからか、会議の前やちょっとした息抜きとして20~40代の支持が高い」という。

喫食が習慣化すれば、大袋人気が高まる
「チョコレート効果」は、1日当たり3~5枚食べるのが一般的。もちろん新田さんは毎日習慣的に喫食するそうだが、興味深い動きも出てきた。
「コロナ禍で、袋入りを買われる方が増え、全売り上げの4割を占めています」
喫食が習慣化すると、箱入りに比べて1枚当たりの単価が安くなる大袋を買う人も増えるのだろう。別の取材ではコロナ禍で「アイスクリームもノベルティ(1個売り)よりもマルチパック(複数個が入った箱や袋入り)の売れゆきが高まった」という話を聞いた。
メーカー側の訴求も、消費者心理を見据えて行っている。
「大切なのはカカオポリフェノールを継続的に摂取することですが、美味しさや楽しさの視点が欠かせません。消費者の方と向き合うと、『健康になりたいよりも、QOL(Quality of Life=生活の質)を高めたい』意識を感じます。美味しいチョコだから続けられる、おやつを食べる楽しさ、も訴求しています」
昭和時代から続き、何度もブームとなった喫食での「健康志向」だが、病気になった時に飲む薬のような意識では長続きしない。一般の健康機能性食品が、昔に比べて味わいやすくなったのも、そうした一面が大きいだろう。
健康志向の一方で、糖分摂取への思いも
「高カカオチョコレート市場」が形成された今だからこそ、消費者に対する正しい啓発も必要だ。たとえば「カカオ分〇%=カカオポリフェノールの数値」ではない。新規商品が増えて市場が活性化すると、玉石混交となる恐れもある。
「チョコレート効果 CACAO 95%」(内容量60gの紙箱。標準12枚入り)では、パッケージにカカオポリフェノールが「1枚当たり174mg、1箱当たり2088mg」と明記されている。“説明責任”としては親切だが、消費者にとっては、1日当たりの適切なカカオポリフェノール量も知りたいところ。パッケージで何をどこまで表示するかの問題もあるが、商品と向き合ってそんなことも感じた。
また、消費者は健康志向の一方で「糖分への欲求」もある。
清涼飲料の例では、「無糖飲料製品の構成比は、2018年で約49%」(全国清涼飲料連合会調べ)というデータがあるが、最近は各メーカーから有糖の茶系飲料が発売されている。紅茶飲料は今でも有糖が強い。取材を重ねると「甘みでほっとしたい」思いも強いようだ。
年々売り上げが拡大する「チョコレート効果」は、前途洋々が続くのか。これまでの取り組みにはリスペクトしつつ、今後の状況も注視したい
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)