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Z世代から絶大な支持を得る「スマホショルダー」、流行の裏に荷物軽量化トレンド

文=鶉野珠子/清談社
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「gettyimages」より

 スマートフォンにショルダーストラップをつけ、肩からかけて持ち歩く若者を見かけたことがある人は多いだろう。実は今、若者の間でこの「スマホショルダー」が人気を博している。彼らはなぜ、スマホを肩からかけて携帯するのか。Z世代に特化したマーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」で所長を務める長田麻衣氏に話を聞くと、スマホショルダーブームを通してZ世代のSNSとの付き合い方が見えてきた。

Z世代のトレンドは「界隈」から伝播し生まれる

 2022年11月8日、SHIBUYA109 lab.は「SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2022」を発表した。「スマホショルダー」は同大賞のファッション部門において、2位にランクインしている。2022年を代表するトレンドアイテムの1つと言えそうだが、そもそもスマホショルダーが流行り始めたのはいつからだったのだろうか。

「21年の末頃から注目され始め、22年の1月にはSHIBUYA109内のショップでもよく見かけるようになりました。夏には、若者の間では定番のアイテムになっていたように思います」(長田氏)

 2022年を代表するヒット商品といえる存在だが、長田氏の見解では「インフルエンサーなど、ブームの火付け役がいたわけではない」という。

「昔は『このモデルさんが使っているから私も真似をしたい』というようにトレンドを生み出す人がいましたが、Z世代は違います。今は『憧れの人の真似』より『身近な友だちと合わせる』方が重要。そのため、それぞれの『界隈』ごとにトレンドが生み出されていくという特徴があります」(同)

 Z世代の間で用いられる「界隈」とは「共通の関心事やカルチャー、好きな世界観を持つ者同士で構成された、ゆるいコミュニティ」のこと。「同じ趣味を持つ仲間の集まり」というような意味で「界隈」という言葉が使われているのだ。

「Z世代のトレンドは、それぞれの界隈で高い熱量を持ったものが他の界隈にまで広がっていき、大きなムーブメントになっていく、という流れで生まれているんです」(同)

 同大賞のファッション部門だけを見ても、「アームカバー」「スマホショルダー」「バンスクリップ(韓国で人気のヘアクリップ)」「ネイルチップ」など、ファッションの系統を問わず使えるモノか、デザインの幅に広がりがあり、様々なスタイルに合わせやすいアイテムばかりが上位を占めている。

「スマホショルダーはもともと、ストリート系やK-POP文化が好きな界隈で流行っていました。それが、チェーンやパールなどデザインの種類が増えて、どんな界隈のコでも取り入れやすくなったのです」(同)

若者の荷物が軽量化している理由

 多くの若者の心を掴んでいるスマホショルダー。Z世代から絶大な支持を得る最大の理由は、利便性の高さだという。

「界隈を問わず、Z世代の共通意識として『荷物を少なくしたい』という傾向があるのですが、その需要を満たしているのがスマホショルダーです。スマホをバッグに入れずともよく、ポケットが付いていない服のときでも携帯しやすいため、重宝されています。また、写真や動画を撮影したいときやスマホ決済をする際など、すぐ取り出せるところもZ世代が使いたくなる理由です」(同)

 写真や動画がスムーズに撮影できる点は、SNSに夢中な若者にとってうれしいポイントだ。キャッシュレス決済を簡便にする点も、荷物を減らすために財布を持ち歩きたくないという気持ちを汲んでいる。

 スマホショルダーの利便性の高さ、若者のニーズとのマッチングの良さは理解できてきたが、そもそもなぜ若者たちは「荷物を少なくしたい」と考えているのだろうか。

「『SNSへの投稿』を念頭に置いて服装を考える人が多いからではないでしょうか。SNSはZ世代にとって、重要な交流の場。見ず知らずの人とSNSを通して知り合うことも珍しくありません。その際、SNSのフィード(投稿が一覧で表示されるホーム画面)は、いわば名刺のようなもの。フィードを見た人に『こういう世界観が好きな人となら仲良くなれそう』と思ってもらうために、投稿を作り込む人がとても多いのです」(同)

 その服を着て遊んでいる様子を写真に撮ってSNSに投稿した際、他者の目にどう映るのか。さらには投稿を一覧で表示したとき、フィードはどのような世界観になるのか。SNSでの自身の見え方に対する意識が、コーディネートを考えるときの前提として存在しているのだという。

ファッションは「コミュニケーションツール」

 SNSでの見え方を考えると、大きなバッグを持っている場合、そちらにばかり視線がいって悪目立ちしてしまう。端的に言えば“映えない”わけだ。

「Z世代はTwitterでもInstagramでも、平均2~3個のアカウントを所持しています。属するコミュニティごとにアカウントを使い分けるためです。我々も、会社で働いているとき、友人と過ごすとき、恋人とデートしているときなど、環境や相手によって自分の見せ方を変えますよね。SNSでも、環境や相手によってアカウントを切り替え、見せ方を変えたいという人が多いのです」(同)

 SNSでの自分の見せ方には、現実以上に視覚的な工夫が欠かせない。そのため若者は、その服装や持ち物が“映える”かどうかをとても気にするのだ。

「日によってファッションの“系統”ごと変える若者もいます。たとえば“推し”のライブに行く日はかわいらしいフレンチガーリー系に、ストリートファッションが好きな友だちと遊ぶ日は自分もストリート系の服装にする、などです。なぜなら、その方がSNSに投稿したときに“映え”たり、一緒に写っている友人とより仲良しに見えたりするから。言うなれば『TPOに合わせる』という考え方に近く、その判断基準の中に『SNS』も入っているという感じです」(同)

 ZARA、H&M、SHEIN、GRLといったファストファッションブランドで服を安く買い揃えやすいという点も、彼女たちの視覚的工夫のモチベーションを後押ししている。これまでファッションは「自己表現の手段」だったが、Z世代にとっては、その先のSNSの投稿までを含めた「コミュニケーションツール」として捉えられているようだ。

 口周りに空間のある「くちばしマスク」も、新型コロナウイルスが流行した当初は若者が多く使用しており、ミドル世代は見慣れない形状ゆえに抵抗感を覚えた人も少なくなかっただろう。だが、しゃべりやすさ、呼吸のしやすさが万人に受け、今や中年男性が使っている姿も珍しくなくなった。

 同様に「スマホショルダー」も、広い層に利便性が届いていけば、近い将来にはビジネスパーソン必携のアイテムとなっていくかもしれない。

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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