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トヨタ、部品調達価格引き上げも効果は1次取引先までか…2次以降は不透明

文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ジャーナリスト
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トヨタ自動車
「Getty Images」より

 エネルギー費や鋼材費の高騰に伴う自動車部品の調達価格をめぐり、完成車メーカーと部品メーカーの交渉が本格化している。トヨタ自動車が取引先の部品メーカーからの調達価格を引き上げることが明らかになると、他の完成車メーカーにも追随の動きが出て、部品メーカーは安堵(あんど)の表情を見せる。しかし、価格アップの恩恵は1次取引先にとどまり、2次取引先以降の部品メーカーまで波及するかどうかは不透明で、中小の部品メーカーは先行きを見守っている。

 今年7月、トヨタが2023年度下期(10~3月)に、1次取引先からの部品調達価格を上げると報じられた。前期に続く対応で、コスト増を価格転嫁できずに厳しい経営環境に置かれている取引先への配慮を示したかたちだ。1次取引先の部品メーカーの関係者は「円高に伴う鋼材費の急騰や物流コストの上昇で減益が続いていたが、親会社の理解で部品調達価格の引き上げにこぎ着けることができ、経営的にひと息つける」と、胸をなで下ろす。トヨタの1次取引先は約400社で、この層の企業に限れば今回の引き上げによって経営状況の改善が望める。

 しかし、その下に位置する、延べ6万社ともいわれる2次取引先以降の部品メーカーまで引き上げのメリットが行き渡るかについては、見通がはっきりしていない。トヨタは1次取引先に対し、2次取引先以降への取引適正化を促す書面を送っているが、どこまで徹底されるかは予断を許さない。

 2次取引先以降は従業員100人以下の中小企業が多く、経営基盤が弱い上、親会社の意向や景気動向の影響を受けやすく、経営が安定しない。ある3次取引先の幹部は「交渉力が弱いし、上の考えには逆らえず、引き上げの恩恵を受益できるかどうか見通せない」と表情を曇らせる。

 部品調達価格の引き上げが2次取引先以降に浸透するかを不確実にしているもう一つの理由が、原価管理に対する認識の甘さだ。完成品メーカーを頂点とする巨大ピラミッドを形成し、広範囲なサプライチェーン(供給網)を抱える自動車産業にとって、原価管理はグループ全体の収益をコントロールする上で無視できない。だが、2次取引先以降の企業は原価管理が不徹底で、自社製品の適正価格を算出できず、「値上げの根拠を親会社に提示できない」(3次メーカー)といい、価格交渉に臨んでも結果的に成果を出せないという。 

 自動車ジャーナリストの桑野将二郎氏は、自動車産業の置かれた現況について、まず「自動車産業の下請けメーカーは、昭和時代は大きなメーカーにぶら下がっていれば安泰という『親方日の丸』の状態だったが、平成以降、さまざまな要因から仕事量と利益のバランスが崩れ、景気や社会情勢の影響も受け、厳しい状況にある」と指摘する。

 その上で、2次取引先以降の企業の抱える問題点を次のように分析する。

「3~4次メーカーは元来、2次メーカーからの発注を受けて、必要な分だけ製品を供給してきたので、原価管理や製造コストを詳細に算出することがなかったのではないか。町工場のように家族経営を軸とした組織では、システムの導入やIT化などが遅れ、時代の流れから取り残された会社も少なくない。若手の雇用も見込めず、従業員の高齢化で生産効率や情報共有の進度が鈍り、技術や知識の伝承も途絶え、サプライチェーンから取り残されていることが考えられる。近年は海外に生産拠点を移した企業も多く、人件費の安い海外の工場と、技術はあるがコストは割高な国内の工場が、受注量で大きく水をあけられた側面もある」

 こうした負の状況を乗り越えるために、「日本の自動車産業復活のためには、国内の中小企業の持つ高い技術やノウハウといった『財産』を完成品メーカーが管理し、グループ全体で共存しながら成長する仕組みが必要。これは日本の企業が町工場とともに高度経済成長期を支えた昭和時代への『原点回帰』かもしれない」と提言している。

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ジャーナリスト)

桑野将二郎/自動車ライター

桑野将二郎/自動車ライター

1968年、大阪府生まれ。愛車遍歴は120台以上、そのうち新車はたったの2台というUカー・ジャンキー。中古車情報誌「カーセンサー」の編集デスクを務めた後、現在はヴィンテージカー雑誌を中心に寄稿。70~80年代の希少車を眺めながら珈琲が飲めるマニアックなガレージカフェを大阪に構えつつ、自動車雑誌のライター兼カメラマンとして西日本を中心に活動する。
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