日銀が7月に続く再利上げのタイミングを模索している。経済・物価動向がおおむね日銀の想定通りに推移する中、植田和男総裁は10月、利上げ判断について「時間的な余裕がある」との従来の表現を撤回。政策変更のタイミングでフリーハンドを握った。日銀が12月18、19日に開く次回の金融政策決定会合での政策判断をすでに固めているわけではないだろうが、市場は年内利上げの可能性に身構える。トランプ次期米大統領の経済政策を巡る不透明感が強まる中、日銀の判断に注目が集まる。
「米経済を含め不確実な点などは無数にあるが、それを全部待ってから政策(変更)をするということではない」。植田総裁は今月18日の名古屋市での記者会見で、年内の再利上げの可能性を排除しない考えを示した。2%の物価目標が実現する見通しの判断については、利上げした7月から「もちろん前進している」と強調。「適宜、金融緩和度合いを見通しに応じて調整しなかった場合、インフレ率が急加速し、急速な金利引き上げを迫られる可能性もゼロではない」と語った。
日銀はマイナス金利政策の解除以降、経済・物価動向が見通しに沿って推移すれば、段階的に利上げしていくスタンスを堅持している。植田総裁がサービス価格の改定期として注目していた10月の全国消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比2.3%の伸びを記録した。同月の企業向けサービス価格指数も2.9%上昇と前月から伸び率が拡大。日銀幹部の1人は、「想定通りの動き」と受け止める。
7月の0.25%への利上げ後も金融環境の引き締まりなどは特段、観察されていない。次の利上げで政策金利は0.50%に引き上げられる公算が大きいが、中立金利の下限とされる1%にはまだ距離がある。7月から半年後の来年1月、もしくはその前後の会合で利上げに踏み切るシナリオは有力に見える。
市場でも早期利上げ観測が広がる。今月27日時点のOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)では、12月は67%、来年1月は85%程度まで利上げが織り込まれており、年内も視野に入れる。
ただ、世界経済の先行きには不透明感が漂う。トランプ次期米大統領はメキシコ、カナダに関税を課す方針を表明。現地に生産拠点を持つ日本の自動車メーカーなどへの影響も懸念されている。貿易摩擦の激化などから先行きの企業収益を押し下げるとの不安感が広がれば、賃上げの勢いが鈍る恐れがある。
また、利上げには国内の政治的なプレッシャーもある。先の衆院選で躍進し、国会でキャスチングボートを握る国民民主党の玉木雄一郎代表は、日銀の早期利上げに慎重な考えを明らかにしている。世界経済の不透明感が強まる中、日銀の判断がより慎重になる可能性もないわけではない。
「(12月会合まで)まだ1カ月あり、それまでに膨大なデータが入手できる」。植田総裁は今月21日に開かれたイベントで、年内利上げの是非について「結論は予測できない」と述べた。会合直前の12月13日には全国企業短期経済観測調査(短観)の発表も控えている。「時間的な余裕」との表現を取り下げ、再利上げに向けて助走を始めた日銀。経済・物価がオントラック(想定通り)であれば、12月以降、どの会合で利上げしても不思議はない。タイミングを見極める上で、日銀からの情報発信に耳を傾けたい。(経済部・宇山謙一郎)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/11/28-14:45)