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職業訓練の先生はホリエモンに任せれば?

4人に1人は再犯10回以上! 刑務所の老人ホーム化が止まらない

文=タマキミナコ
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4人に1人は再犯10回以上! 刑務所の老人ホーム化が止まらないの画像1『刑務所なう。』(文藝春秋/堀江貴文)

 世界一安全な国と言われている日本。けれども、安全なはずの日本で高齢者による犯罪が年々増加していることはあまり知られていない。日本における65歳以上の高齢者人口は年々増加しているが、それに呼応するかのように、高齢者の犯罪も年を追うごとに増えている。「平成23年版犯罪白書のあらまし」(法務省)によると、刑務所入所受刑者数が2006年をピークに減少し続けているのに対して、高齢受刑者の数は増え続けるばかりである。

 高齢者人口の増加は、1995年から11年までの約15年間で約1.5倍程度。しかし同時期に高齢受刑者数は約4倍に急増。高齢者人口の増加ペースをはるかに上回る勢いで、高齢者の犯罪が増えているのだ。法曹関係者のA氏によれば、この傾向は諸外国と比較して珍しいという。

「一般に先進国で犯罪の年代別統計を取ると、20歳前後をピークとして、その後検挙者数は年齢を追うごとに減少していきます。40歳を過ぎると激減し、国によっては年代別検挙者数の表に50歳以上が含まれていない場合すらあります」(A氏)

 高齢受刑者の割合が高く、彼らに再犯が多いのも日本の特徴のひとつ。65歳未満の受刑者はその約半数が初犯だが、65歳以上の高齢受刑者になると初犯での服役は4分の1程度に過ぎず、その多くが再犯、再々犯ばかりなのだ。そして驚くべきことに、彼らの4分の1は再犯回数10回以上の「常連」となっている。

 長寿国・日本では、元気な高齢者は枯れることなくエネルギッシュに犯罪を重ね続けているのだろうか?

 しかし、高齢者犯罪の内訳を見てみると、そうとは言い切れない現実が見えてくる。法務省関係者のB氏は、次にように解説する。

「『平成20年版犯罪白書のあらまし』によると、高齢者検挙人員の罪名別構成比は、その70%は万引きなどの窃盗となっており、特に女性高齢者の検挙は、万引きと万引き以外の窃盗だけで90%以上を占めています。『元気で枯れない高齢者』『リタイア知らずの犯罪のプロ』などでは決してない。生活に困窮して犯罪に走り、出所しても職も身元引き受け人もないまま刑務所に戻っている、という図式が浮かび上がってきます。 

 ではなぜ、日本ではこれほどまでに高齢者犯罪が増えてしまったのか? B氏は、その大きな原因として、日本の高齢者福祉や年金制度の脆弱さを挙げる。

「40年間毎月年金保険料を払い続けていても、老後に月々数万円程度しか支給されない国民年金。受給資格を得るためには最低でも25年間払い続けなければならず、25年に1カ月でも足りなければ支給を受けることのできない老齢年金。これほど低い年金の支給水準にもかかわらず、10年度には収入が年金のみという高齢者世帯が63%にも達しています。月々数万円で生活は成り立たない。職に就きたくとも日本では高齢者が職を得るのは難しい。この貧弱な社会保障こそが、急増する高齢者犯罪の温床のひとつと言えるのではないでしょうか」(B氏)

 では、服役する高齢者の社会復帰への支援は、どのようになっているのだろうか。前出のA氏によれば、日本の刑務所には必ず職業訓練施設が設けられているが、高齢者は職業訓練を受けても習熟に時間がかかる上、日本では高齢者に対する雇用需要が極めて少ない。

 さらには、刑務所内の職業訓練施設にも、一般社会では考えられないような問題があるようだ。元受刑者のC氏(68歳)は刑務所内での職業訓練について次のように語った。

看守に嫌われたら職業訓練はなし!?

「どの受刑者にどんな職業訓練を受けさせるかを決めるのは、看守の意思ひとつ。看守に気に入られなけりゃ、『スキル不足のため、作業をさせるとケガや事故が起こる可能性がある』などの理由をつけられ、まともな職業訓練なんかさせてもらえないんです」

 社会復帰のための刑務所内の職業訓練は、すべての受刑者に平等に施されている訳ではなかったのだ。さらにC氏は続けて語る。

「僕は幸い、看守に好かれてましてね。おかげでしんどい作業を免除されて、何種類も職業訓練を受けさせてもらえましたよ。でね、職業訓練施設に工場で使う旋盤用の機械があったんですけど、そこに書かれている取り扱い説明は、なんと全部『旧かな遣い』だったんですよ。『ナニナニヲ使フベカラズ』みたいな。そんな大昔の機械を使ってたんじゃ、実社会で通用する最新のスキルや知識なんて身につきゃしないでしょう」

 前科者のレッテルを貼られ、職能もなく一般社会に放り出された高齢者が生きていくためには、路上生活をするか、あるいは少なくとも寝る場所と食事の保証された刑務所に戻るしか、道はないのかもしれない。

 龍谷大学教授で、矯正処遇官として刑務所での勤務経験もある浜井浩一氏は、著書『犯罪不安社会』(光文社新書)の中で、刑務所職員にこう言われたと述べている。

「受刑者はいくらでもいると言いますが、まともに作業ができる受刑者はほとんどいません。みな、老人か障害者か、病気持ちばかりで……」

 刑務所内では作業中の事故防止のために、細かく安全基準が設けられている。そのため、高齢、生活習慣病などの疾病、知的障害、覚せい剤の後遺症のある受刑者を作業につけることはできないというのである。

 刑務所での作業は、健康で普通程度の健康と理解力があればこなせるものがほとんどだ。しかし、そういった作業にすら対応できず、一般社会では生きていけない人々が、刑務所を最後の砦として、生を営んでいるかのような錯覚に陥ってしまう。

 それは、脆弱な福祉で救いきれない高齢者を刑務所が「税金で養っている」ことに他ならない。数年後、団塊の世代が高齢者に達することにより、日本は世界でも類を見ない高齢化社会に突入する。年金や福祉などの問題が山積みされた日本で、将来、刑務所が高齢者だらけになってしまうかもしれない。
(文=タマキミナコ)

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