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日本の常識はドイツの非常識 第3回

「9歳で将来が決まる」「非大卒は出世できない」は当然?

文=金井ライコ/フリージャーナリスト
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厳しいのは転職でも同じだ

 転職も大幅に職種を変えるのは、よっぽどの幸運に恵まれない限りない。勉強した専門分野に関係した職業に就くのがドイツでは当然である。営業職に就く人は営業の勉強を、銀行員になる人は銀行の専門知識を、農業に携わるにも資格がいるので、農業をしたい人は農業の知識を、それぞれ専門学校で学ばなくてはならない。日本のように、学部不問で就職するなどあり得ない話なのだ。だから、会社を変わることはあっても、基本は同じ職種に限られる。

 前回記事で、ドイツ人は終業時間になると脱兎のごとく退社すると書いた。その背景には、こうした階級社会が大きく影響しているといえる。大学を卒業していない人たちは、いくらがんばって仕事をしたところで、その上の出世はないからだ。だからがんばる必要もないし、上司たちもそれを望んではいない。そのために割り切って、時間がきたらすぐに帰宅し、自分の時間を楽しむのである。

ビタミンBの”B”はドイツ語のBeziehung(人脈)

 さて、大卒のエリートといっても職が簡単に見つかるかというと、「就職難」はドイツも日本と同じ。特に最近では、ユーロ危機の厳しい経済状況下で、さらなる逆風が吹いている。そんな厳しい就職に立ち向かう学生たちが交わす会話の中によく出てくるのが、「ビタミンB」という言葉だ。

「君はビタミンBを持っている?」
「まったくない。困ったよ」

「ビタミンB」と言っても、ビタミンをたっぷりとって健康に気をつけて就職を乗り切ろうなどという話ではない。「ビタミンB」の「B」はドイツ語の「Beziehung(人脈)」を表す。取材をするとき、アルバイトや職業実習先などを探すとき、はたまた大学に入るときなど、いろいろな場面でこのコネが威力を発揮することが多々ある。もっとも強いのは「ビタミンB+能力」。この場合は、即合格に結び付くケースが多い。

 日本と違って就職は通年採用のため、自分で「ビタミンB」を探して応募するということもあれば、持ってないが磨き上げた能力で――という人だっている。日本でコネといえば恥ずかしいものといったイメージだが、ドイツではそんなことはない。人脈を得るためには、大学学部の同窓会に出席して、OBを訪ねるなどの努力を惜しまない人もやっぱり多い。

 階級社会で、ルールにも厳格なドイツだが、正攻法だけでは息が詰まってしまう。だからこそ「ビタミンB」のような抜け道は用意されているのかもしれない。自分には「ビタミンB」がまったくないとあきらめてはいけないのだ。これをいかに見つけるかも、能力のひとつなのである。

長い歴史と伝統がつくり上げた、ドイツの高等教育制度

 このような階級社会は、長い歴史からいまに受け継がれてきたものだ。ドイツで、学歴のない人が億万長者になるという”アメリカンドリーム”の実現はかなり可能性が低いといっていいだろう。その点では何度でもチャレンジできる、いわば敗者復活戦が存在する日本のほうがいいかもしれない。しかし、就業時間や仕事の効率性、経済状況、日々の暮らしを見ると、ある程度のすみ分けは必要だと私は思う。それがあるからこそ、個人は余暇を大切に暮らし、仕事に追われることがない。

金井ライコ/フリージャーナリスト

金井ライコ/フリージャーナリスト

フリージャーナリスト、ライター、翻訳家。横浜国立大学を卒業後、教育誌、経済誌、男性一般誌の編集者を経て渡独。ミュンヘン工科大学で農業学とビール学を学ぶ。ドイツのビオ、健康、エコロジー、ビール、観光情報を各誌に執筆。

ブログ:ゆるゆるドイツマガジン「so la la」

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