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日本の社外取締役は有名無実な存在

経団連の反発でオシャカになった社外取締役の義務化法案

文=編集部
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post_437.jpgお目付け役。「Thinkstock」より
 日本経団連は強かったということか。法務省の法制審議会(法務大臣の諮問機関)の会社法制部会が検討している会社法改正の要綱原案が、7月18日に提示され、社外取締役の義務化は見送られた。経営側の抵抗に遭い、法務省の事務方が腰砕けになったのだ。

 会社法の見直しは、オリンパスの巨額粉飾決算や大王製紙の前会長による特別背任で損なわれた市場の信頼を回復するのが狙いだった。大王製紙の事件では、カジノで負けた穴埋めをするために子会社から役員会の承認を得ずに多額の借り入れを行っていた。経営の監視機能を強化するための重要な柱になったのが、取締役会に「社外の目」である社外取締役を入れることだった。

 11年12月にまとめられた会社法改正の中間報告は、資本金5億円以上の上場企業に1人以上の社外取締役の選任を義務づける内容だった。

 選任義務化に強い拒否反応を示したのが経済界だ。日本経団連が真っ向から反対した。「一律導入は合理的ではない」と声高に主張した。

 社外取締役の選任義務化に反対する経団連のこの動きは、外部から経営について批判されたくないという本音がミエミエだった。日本の大企業は生え抜き社員が社内での競争に勝って出世していき、最終ゴールとして社長になるといった双六のような構造になっている。企業が株主のものであり、経営者は“雇われママ”であることを、どうしても忘れがちになる。自分たちの地位を守ることには熱心だが、株主は常に軽視されてきた。社外取締役の選任義務化に猛反発したのは、その心根が露骨に出ただけなのだ。

 社外取締役の選任義務化に強い拒否反応を示していたのが日本経済団体連合会(米倉弘昌会長・住友化学会長)と全国銀行協会(佐藤康博会長・みずほフィナンシャルグループ社長)だった。全銀協は「社外取締役の選任は、すべての企業に適合的なものであるとは限らない。社外取締役を法で一律に義務付けることは、かえって企業が自社に最適なガバナンス態勢を構築する際の妨げになるおそれがある」と主張した。さらに全銀協は「一律に社外取締役の選任を義務付けることは、本来それを必要としない銀行・企業にとっては、経営・管理コストのみが増大するという弊害が生じる」と強硬な反対論を展開してきた。

 融資先などとの利害が錯綜するので誰を社外取締役に選ぶかが難しいという、お家の事情は確かにあるが、要は「社外(取締役)から銀行経営についてガタガタ言われたくない」ということなのだ。今年1月、経団連は「社外取締役であれば常に適正な監督を行うとは限らない」との意見書を法務省に提出し、社外取締役の選任を義務付ける動きを牽制した。経団連は大手化学メーカーや鉄鋼など重厚長大型企業が主流派だ。

 経済同友会(長谷川閑史代表幹事・武田薬品工業社長)も義務付けに反対したが、「上場会社には社外取締役は必要で、その選任には法律による義務化ではなく、証券取引所による上場規定などで対応すべきだ」と主張していた。経団連ほど頑迷ではない。

 一方これに対して、日本弁護士連合会、日本監査役協会、日本公認会計士協会、東京証券取引所(斉藤惇社長)、日本取締役協会(宮内義彦会長・オリックス会長)は1人以上の義務化に賛成した。コーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化を求める側は義務付けに賛成で、本当は経済界の対応は大きく分かれていたわけだ。

 巨額な損失隠蔽事件から元社長らの逮捕に発展したオリンパスでは、3人の社外取締役が選任されていたが、隠蔽工作をまったくチェックできなかった。社外取締役に選ばれる人は、社長の“お友達”であるメインバンクの役員・元役員や高級官僚の天下り組であることが多い。複数の会社を掛け持ちしているケースが多く、こうしたことも原因となっているだろう。

 最終的には「証券取引所の上場規制で社外取締役の設置を努力義務とするよう求める」など一定の前進はみられたが、社外取締役の義務化が見送られたことにより企業統治改革は道半ばで終わった。社外取締役を置かない企業にはその理由を明らかにするよう求められている。

 皮肉なことに経団連米倉会長の出身企業である住友化学では、6月末の株主総会で社外取締役を選任した。経団連は反対なのに住友化学は社外取締役を置くことになった。これは一体どういうことなのか?

 社外取締役さえ置けば、監視機能がすべてうまくいくという保証はない。その悪しき例がソニーだった。ソニーは早くから経営の監督と執行の分離を進めており、03年に委員会設置会社となった。取締役会の中に指名、報酬、監査の3委員会を置き、それぞれ社外取締役が過半数を占める企業統治体制となった。

 前期までソニーを率いてきたハワード・ストリンガー氏は、社外取締役の数を年々増やし、昨年には取締役15人のうち13人が社外取締役。社内からの役員は、ストリンガー会長兼社長CEO(最高経営責任者)と中鉢良治副会長の2人だけだった。

 ソニーの場合、「さすがに社外取締役の数が多すぎる」という声が挙がったが、社外取締役がきちんと監視の目を光らせていれば、人数は問題ではない。しかし、まったく機能していなかったから批判を浴びたのだ。

 ストリンガー体制下で、ソニーの中核であるテレビ事業は8期連続の赤字、最終損益は4期連続の赤字。それでいて、ストリンガー氏は12年3月期に4億4950万円の役員報酬を得ていた。前年度に比べて半分ほどに減ったとはいえ、あまりの高額報酬に、株主総会で批判の声が相次いだ。ストリンガー氏の高額報酬を決めたのは、社外取締役が仕切る報酬委員会ということになっていた。

 しかも、4期連続の赤字で引責辞任するどころか、今期、会長兼社長CEOから取締役会議長に“昇格”したのだ。社外取締役は何をしているのかと批判が渦巻いている。

 ソニーは、取締役会議長だった小林陽太郎・富士ゼロックス元会長や張富士夫・トヨタ自動車会長、小島順彦・三菱商事会長など大物が社外取締役に就いていた。彼らは、出身企業が赤字になれば、それこそ怒り心頭に発するだろう。だが、ソニーがなぜ赤字なのかを徹底的に問い質すことはしてこなかった。

 ソニーは日本の企業でいち早く、社外取締役による監視体制を取り入れた。その結果、4期連続赤字の責任を経営トップが取らなくていい無責任体制ができあがったのである。

 7月17日現在、東京証券取引所第1部に上場する企業の53.9%が社外取締役を選任しており、5年間で、その比率は10ポイント上昇した。形式的には社外取締役を置く企業は、これからも増えることだろう。だが、必要な時に適切に「ノー」と言える社外取締役はほとんど皆無といっていい現状からみて、社外取締役の起用や増員がコーポレートガバナンスの強化につながるわけではないことを肝に銘じておく必要がある。

 社外取締役選任義務化は見送られたが、義務づけられたとしても実効性があるかどうかは疑わしかった。社外取締役の選任はポーズで、投資家に対して、「欧米流の開かれた経営を採り入れている」とアピールする以上の意味はないからである。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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