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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(8月第2週)

マンガ家・江川達也の印税は、新興宗教に寄付された!?

post_516.jpg(右)「週刊ダイヤモンド 8/18号」
(左)「週刊東洋経済 8/18号」
海外への租税回避は5000万円までに制限!?

「週刊ダイヤモンド 8/11・18号」の大特集は『もめる相続 賢い「対策と節税」という特集だ。日本では毎年約110万人が亡くなる。このうち相続税が課される人はわずかで、相続はどこか人ごとであった。だがこれから大きく変わる。相続税の増税は必至で課税対象者も大幅に増えそうだ。増税の中身を解説するとともに、節税や遺産争い回避など相続にまつわるノウハウを紹介するという企画だ。

 ……しかし、この相続ネタは、ライバル誌「週刊東洋経済」が6/30号で特集したばかり(『あなたを襲う相続税 失敗しない事業承継 葬儀・墓』)。しかも、その6月の時点で当欄は、ツッコミを入れているのだが、相続税の増税は、2010年末の政府の「2011年度税制改正大綱」で記載された改正案で、その後、国会では与野党の衆参ねじれ国会で、なかなか通過しないままになっている話。

 経済誌は何度も、「大増税がやってくる」とあおっており、「週刊ダイヤモンド」でもすでに11年1月22日号『相続が大変だ』で大特集をやっているのだ。

 つまり、国会が2年越しで通過できないために、各経済誌が何度も相続の改正を紹介して、「やるやる」詐欺のような事態になっているのだ。今回のダイヤモンドも「年末の13年度税制改正であらためて議論されることになるとみられ、早ければ15年から相続税増税となる見通しだ」などと書いている。つまり、今、この相続税の特集をやる必要性はまったくないのだ。

 今回の特集で知っておきたいのは、『Part2 知られざる節税対策』だろう。多額の資産を持つ富裕層たちが日本を捨てて海外に資産を移しており、これを租税回避の動きという。この租税回避を目的に海外に資産と生活拠点を移し始めているのだ。これに対し、国税庁も安易な課税逃れを防ぐ取り組みを活発化させている。

 その象徴的な事件が、1600億円相当の贈与が問題となり、相続税法上の「生活の本拠」(日本か香港か)をめぐって、最高裁まで争われた消費者金融大手・武富士創業者の長男の裁判だ。詳しい経緯は記事を読んでいただきたいが、最高裁は香港を生活の本拠とする長男側の主張を認め(国側敗訴)、国は還付加算金を含めて約2000億円という巨額の還付をせざるをえなくなった。この最高裁の判断に研究者からも多くの批判が出て、この武富士事件は国税庁上の最大の屈辱とも言われている(その後、相続税法は改正されており、武富士事件のような手口は使えなくなっている)。ただし、この武富士事件はとうに確定した話だ。

 さらに、国税庁が現在、注目しているのが中央出版事件だ。名古屋にある教育系出版社「中央出版」といえば、あまりいいうわさは聞かない出版社だ。その「中央出版」元会長から孫の男児(米国籍)への米国債の信託スキームを使った5億円の贈与をめぐり、国税庁が贈与税など計約3億1000万円を追徴課税したことで、裁判となっている問題だ。11年3月の名古屋地裁での判決では、国税庁の言い分が認められず、敗訴・控訴中だ。

 判決文を見ると、「中央出版」元会長側も明らかに租税回避を狙っていて(わざわざ孫を米国籍にしているなど)、課税とのグレーゾーンの問題なのだ裁判所はグレーゾーンを国税庁に不利にとっており、国税庁としては歯がゆい状態が続いている。

 相続税の世界では、この中央出版事件が一番ホットな話題なのだが、米国とスイスの銀行が舞台になる複雑なスキームのためか、今回のダイヤモンドでは、一切紹介されていないのだ。これでは「記事の鮮度が古くないか!?」と思ってしまう。

 また、今後に影響を与える重要な改正にもそっけなく触れるだけだ。

 海外への租税回避行為への対応策として、現在、国外財産調書制度という制度が整備され始めた。国外財産調書制度とは「その年の12 月31 日において価額の合計額が5000万円を超える国外に所在する財産(「国外財産」)を有する居住者は、当該財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書を、翌年3月15 日までに、税務署長に提出しなければならない、というものだ。  

 つまり、海外資産が5000万円以上のある納税者は、税務署に確定申告と同様にその情報の提出が必要になってくる。逆に言えば、もし海外財産を持つのならば、5000万円未満にしておく必要があるということだ。制度は罰則もあり、海外の当局との税務情報交換ネットワークも整備されつつあり、ほぼ完全に国税庁が情報を把握できるようになるのだ。

 この改正案は今国会で通過しており、13年から適用と納税者にとっては重要な話なのだが、記事上では「12年度税制改正では(略)毎年税務署への報告を義務付けた」などと軽くふれている程度だ。今回の特集目当てで、今号を買った租税回避を狙う読者にとっては、不親切な話だろう。どこか「自分は相続税、5000万円以上の国外財産は関係ない」というような記者の他人事感が伝わってきてしまう。

 また、「東洋経済」6/30号の特集では、『大企業の世襲とは① ニトリ社長、肉親と裁判の泥仕合』という形で、マスコミではタブー化している家具の最大手ニトリホールディングスの創業者家族の遺産分割協議をめぐる似鳥昭雄社長側と実の母親と昭雄社長以外の3人の妹弟側との骨肉の争いをレポートしていた。今回のダイヤモンドではその続報にでも迫っているかと思いきや、そういった骨のある記事はなく、代わりといえそうなのが、『相続の明暗を分けた遺言の存在 人気漫画家は実兄と骨肉の争い』という記事だ。

 99年に死去した父親の遺言がなかったことで骨肉の争いに発展したのが、マンガ家の江川達也氏。もともと江川氏のマンガ製作等で得た資金を父親に提供していたが、この資金をもとにした遺産をめぐって、実兄がすべての遺産の相続を要求し、13年にも及ぶ「争続」となっているのだ。江川氏本人が『有名漫画家が初めて激白!! 13年に及ぶ兄との壮絶「争続」』というインタビューにも登場している。

 その発言たるやすさまじい。「苦しい裁判を続ける動機は?」という質問に「当然、子どもの生命を守るためです。今まで兄の要求を少しでものんだら最後、要求はエスカレートしました。兄が『議論を戦わせた』母は、私の解釈では、兄の言葉の虐待によるストレスから胃がんで亡くなり、次に議論相手にされた父も同様に胃がんで死にました」と江川氏は答えている。江川氏といえば、マンガ家になりたてのころの印税をほとんど母親と兄がハマった新興宗教に全額寄付されたエピソードがあるが、ここまでくると、相続の話というよりも、宗教問題ではないかと思えてくる。ダイヤモンド編集部もインタビューはしたものの、扱いに困った感じが文章からも伝わってくる。

 もし、経済誌がまた、国会で改正案が通過しないのにもかかわらず、ヒマネタ的に、相続モノを特集する際には、国外財産調書制度の詳細と、ニトリ創業家と江川達也氏、そして中央出版事件の最新事情は必ずフォローしていただきたい(笑)。

3D事業をめぐる日韓戦がはじまった!

「週刊東洋経済 8/11・18号」の大特集は『クスリ 全解明』だ。次々と登場する期待の新薬から、費用負担を安く抑えられるジェネリック、ドラッグストアで買える風邪薬、注目の漢方薬までクスリと賢くつきあうための知識を徹底図解するというもの。

 東洋経済は2年前の10年5月1日・8日合併特大号でも『クスリ全解明+先端医療』特集を行なっており、休暇前の恒例の特集だ。

 ビジネスジャーナル読者にとっては、今年4月「通信販売を認めるように」とする高裁判決の結果を受けてネット販売解禁の方向へと動き出し、今後は対面では薬剤師に相談しづらい医薬品もネットで購入できるようになる『OTC(一般用医薬品) ネット販売の解禁で患者の生活はどう変わる?』や、約5200億円市場とされ、許可数は今年5月に1000品目に到達したトクホ(特定保健用食品)の「病気の予防や治療につながる」といったイメージの誤解(「お腹の調子を整える」など、特定の保健の目的が期待できるにすぎない)を解説した『実はあなたには効かない? 誤解の多いトクホ利用 消費者庁も異例の通知』といったところは知っておきたい。

 今回、ご紹介したいのは、連載記事の『カンパニー&ビジネス』『世界のスポーツ放送は3Dが常識 映像・放送分野でも進む日本のガラパゴス化』という記事だ。

 実は今回のロンドンオリンピックでは世界的に3Dの生中継が行なわれている。行なわれていないのは主要国ではカナダと日本くらいだという。それだけではない、ロンドン市内の3D対応の映画館では、「映画、音楽、スポーツ、オペラ、バレエ」といったイベントのライブ映像は3Dのパブリックビューイングとしてビジネス化しているのだ。より臨場感が味わえると好評だそうだ。

 今年1月、日本では電機メーカー各社が3Dの拡販をしかけたが、地上デジタル放送移行完了後の消費意欲の低下もあって、不発に終わっているほどだ。  しかし、日本のNHKは英BBCと同様に技術開発の基本方針として2030年に3D映像の実用化を目指している。英BBCは欧州での3D表示機能を活用する動きに合わせて、方針を前倒ししている。つまり将来的には3Dの方向には進む予定なのだが、足元ではガラパゴス化が進んでいるという。現在、映画撮影用やハンディ型まで多様な3Dカメラが活躍しているがそのほとんどが日本製だ。ロンドンオリンピックではパナソニックが3D技術を供与、カメラなどを納入している。

 現在、3Dの映像技術に国策として取り組む中国や韓国、なかでも韓国は国をあげて韓国規格の売り込みをかけている。他方式にはない優れた特徴もあるため、国際標準に決まれば同方式を採用する国は拡大する一方になるのではないかという。韓国製メーカーの機材が入り始めると、その実績や価格攻勢によって、あっという間に韓国製への機材置き換えにつながりかねない。

 現在でも、地上デジタル放送移行完了後の消費意欲の低下の影響も受けて、日本のテレビメーカー、パナソニック、ソニー、シャープは総崩れ状態だ。さらに3D事業の分野でも韓国勢の攻勢を受けているというわけだ。

 日本の消費者は3Dに関しては、それほど魅力は感じない、とばかりは言っていられない世界市場をめぐる企業の競争が激化しているのだ。

 なお、「ダイヤモンド」も「東洋経済」も今週号が合併号で来週号は休みだ。
(文=松井克明/CFP)

BusinessJournal編集部

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