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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(11月第4週)

ソフトバンク、スプリントとイー・アクセス同時買収ができたワケ

post_1041.jpg(左)「週刊東洋経済」(11/24号)
(右)「週刊ダイヤモンド」(同)
「週刊東洋経済 11/24号」の大特集は『ソフトバンクの世界作戦』。10月、米国携帯3位のスプリント・ネクステルを約1・6兆円で買収すると発表したソフトバンク。両社の合計売上高は6・3兆円、世界3位の携帯電話会社に躍り出る。

 約1・8兆円に上ったボーダフォンジャパンの巨額買収から6年。ソフトバンクの業績は順調に拡大し、2012年3月期の営業利益は6752億円と、ライバルのKDDI(4776億円)を大きく上回った。スプリントと合わせたEBITDA(償却前営業利益)ではNTTドコモをも上回ることになる。

■孫正義に立ちはだかる米国の壁

 このソフトバンクは孫正義氏の個人経営のように見られがちだが、実は重層的な組織が支えている。その中身を徹底解剖した特集だ。『カリスマの周囲には「この道何十年」のプロがずらり 孫流スピード経営、誰が支える』という記事では、要職につくスタッフを写真つきで紹介している。

 たとえば、非東大卒ながら東大閥の富士銀行で副頭取まで務めた取締役の笠井和彦氏は大番頭の役割を、社長室長は民主党で衆議院議員を3期9年務めた嶋聡氏……。「ADSLの生みの親」や「通信技術の目利き」などその道のプロが支えている。

 だからこそ、今年6月から話を進めてきたスプリントとの買収交渉の土壇場の段階で、KDDIによる買収を阻止するために浮上したイーアクセスの買収話も同時に進めることができたのだ。イーアクセスの買収発表は10月1日、スプリントの買収発表は10月15日だ。

 スプリント買収に関して「スプリントとわかったときには正直しびれた。カントリーリスクの低いアメリカで3位のスプリントを買う、というのは実に絶妙。事業立地の選び方も勝負のタイミングも本当にうまいと思う」と川辺健太郎ヤフー副社長兼最高執行責任者が語り、ソフトバンク社外取締役にしてファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は「孫さんの度胸のよさには参るね。ソフトバンクは今のままいけば、年間の経常利益が1兆円になるのはもうすぐだ。それにもかかわらずスプリントを買って、日米で通信事業を追求する。(略)将来の日本のことを考えたらNTTを超えても仕方ない。それなら(米国1位の)ベライゾンや(米国2位の)AT&Tを超えて世界一の携帯通信会社になったほうがよほどいいと考えたんじゃないか」と語っているが、実際には課題が山積みだ。

 まずは、米国・政府機関からこの買収が承認されるかだ。米国では大型買収に際し、独占禁止法の観点から司法省と連邦通信委員会(FCC)の承認を得なければならない。これが大きな関門で、11年に(米国2位の)AT&Tモビリティが発表した業界4位のTモバイルUSAの買収は、両政府機関の反対によって失敗しているからだ。そしてAT&Tモビリティは、ソフトバンクのスプリント買収に反対しており、政府審査をめぐるかけひきが始まっている。

 さらに、買収が承認されたとしても、スプリントの経営改革がどこまでできるかという問題がある。同社は米国第3位といっても、事実上同国のモバイル市場は(米国1位の)ベライゾンと(米国2位の)AT&Tモビリティが圧倒的にリードしている寡占状態。スプリントとしては次世代ネットワーク整備資金の確保をしたいというのが、買収を打診した本音だ。

 つまり、スプリントとしてはソフトバンクに、次世代ネットワーク整備資金だけを望んでおり、ソフトバンクが7割の株式を持つことになるものの、それ以上の経営関与を求めていないのだ(記事『米国通信業界はソフトバンクに関心なし “2強”の厚い壁、崩せるか』)。

 これに対し、記事『孫正義 インタビュー 世界作戦、本誌にすべて語った』によれば、孫氏は「毎月1~2週間は(現地に)行く。向こうからは毎月幹部に1週間ぐらい来させる。だから日本かアメリカか、どちらかで月の半分ぐらいはフェース・トゥ・フェースで経営していく。残り半分は、ビデオ会議で、お互いの顔を見ながら会議を進める。ほとんど一体経営になると思う」と語っている。

 米国通信業界では、海外事業者による投資の失敗が相次ぐ。唯一の成功例は、(米国1位の)ベライゾンの47%の株式を持つボーダフォンだが、ボーダフォンは経営にいっさい口を出さないサイレントインベスターに徹しているという。

 買収が完了となるのは来年半ばの予定だが、注目が高まりそうだ。

■原価はわずか1割程度の健康食品ビジネス

「週刊ダイヤモンド 11/24号」の特集は『飲む前に読む 健康食品サプリのウソホント』だ。サプリなどの「健康食品」の市場規模は、昨今の健康志向の高まりを追い風に2兆円規模に拡大している。6割近くの消費者が現在利用し、半数近くが2種類以上を併用。健康食品に年間1万2000円以上を支出している人は4割に上っている。

 そんな市場の拡大に伴って、カネのにおいを敏感にかぎつけて参入する企業や業者は後を絶たない。医療などと比べ参入障壁が格段に低いことも大きい。しかし、「期待したほどの効果がなかった」とアンケートに答える消費者が8割以上に上っている。多くの消費者は食品にすぎない健康食品を「薬」として購入しているのだ。

 刺激的な宣伝やインターネット上に流れている情報は、誤解や迷信であふれている。今こそ正しい知識が必要だ、という特集だ。

「健康食品」が健康被害をもたらすこともある。「食事制限嫌い、運動嫌いな方のダイエットをサポート」というキャッチコピーでテレビCMを大々的に展開し、サプリの売り上げランキングでは常に上位に入る大ヒット商品がある。このサプリをめぐって、激しい嘔吐と下痢を繰り返すなどの健康被害が問題になっているのだという。原因として疑われているのは、原料として用いられている、インドやタイ、ミャンマーなどに自生するシソ科の多年草から抽出されるフォルスコリンという成分だ。

 この製品を販売したメーカーは、12人の男女を対象に8週間にわたる臨床試験を実施。体重は減り、軽度の消化器症状以外は特に問題がなかったと米国生薬学会で発表している。しかし、専門家によれば「学会は特に厳しい審査があるわけではなく、誰でも発表できる」という。つまり安全性に関しては保証されていないのだ。メーカーも「便通に影響を受ける方が多い傾向があるので『過剰摂取は避け、体調に合わせて摂取量を調整して』と記載している」とコメントしている。

 健康被害はそれだけではない。健康食品が原因と見られる健康被害の事例を見てみると、肝機能障害、じんましん、下痢や腹痛、嘔吐、なかには服用後、劇症肝炎によって死亡したケースもあるというのだ。こうした問題が疑われる健康食品はすべてダイエット系の食品で原材料はハーブである点が共通しているという。

 これだけではない。健康食品と呼ばれるものの中で、個人輸入の普及により国内に大量流入、蔓延している「無承認無許可医薬品」まで含めるとその被害はさらに拡大するという。

 記事「健康食品・サプリの誤解」によれば健康食品と医薬品には明確な違いがある。医薬品は病気の治療に用いられるため、医師・薬剤師の管理下での使用が大前提となる。薬は効果が強いため“害”にもなりやすいからだ。健康食品はあくまで健康な人が足りない栄養素などを補う際に利用するもので、成分や製品の選択は個人の判断に委ねられているのだ。

 そして最大の違いは効能・効果をうたうことができるか。医薬品は厳しい審査と厚生労働大臣による製造販売承認を経て、効能・効果をうたうことができる。一方で健康食品はそうした表示を許されていないのだ。健康食品はどんなに効き目があるように見えても、単なる「食品」にすぎないのだ。

 ただし一部に例外がある。「おなかの調子を整える」「血圧が気になる方に」など特定の保健効果を表示することを消費者庁長官から審査・認可された特定保健用食品(トクホ)と、国の審査はなくビタミンやミネラルなど栄養成分の規格基準に一つでも適合していれば製造業者等がうたうことができるのが「栄養機能食品」だ。

 これらは医薬品ほど効能・効果を大きくうたうことはできないが、健康志向の消費者にアピールしやすくなる。08年からいわゆるメタボ検診が義務化されたこともあり、とくに、中性脂肪対策や高血圧対策のトクホは急増中、今年トクホの認可を受けた商品はついに1000品目を突破した。今年はトクホコーラというヒット商品も生み出したほどだ。
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 実は、ライバル誌「週刊東洋経済」も9/8号の大特集『「貧食」の時代 壊れるニッポンの「食」』で、健康食品の問題を取り上げている。その際、トクホコーラの売りである「食事の際に、脂肪の吸収を抑える」という効果について疑問を投げかけている。この効果は難消化性デキストリン(食物繊維の一種)が入っているため。だが、実際にこの成分が入っているコーラと入っていないコーラで比較したところ、血中中性脂肪の上昇はピーク時の4時間後に1割強抑制されたが、専門家によれば、「効果がこの程度であればトクホのコーラを飲むよりも、脂肪分の多い食事を抑制する方が早道だ」と指摘する記事が掲載されていた。今回のダイヤモンド誌の試験結果でも、中性脂肪の上昇を「なくす」わけではなく、飲用後6時間経つと一般のコーラとの差がなくなってしまうレベルだと書かれている。

 また、トクホの試験では効果が表れやすい人を被験者としてしていることが多いのだという。たとえば、黒烏龍茶やトクホコーラではBMI(ボディマス指数:人の肥満度を表す体格指数)が軽度肥満との境界線に近い人(BMI 26.1±3.1)が被験者になっているという。

 同誌の記事『消費者だましのテクニック』によれば、こうした健康食品の原価はわずか1割程度、直販ならもうけは3割だという。潤沢な広告宣伝費でより多くのCMを打ち、新規顧客を確保する……というボロいビジネスが健康食品ビジネスなのだ。
(松井克明/CFP)

BusinessJournal編集部

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