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オバマ再選で財政の崖問題が深刻化

偽装だらけの失業保険に住宅ローン アメリカ財政は破綻寸前!?

文=鷲尾香一/ジャーナリスト
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post_1066.jpg(画像は「Thinkstock」より)
 11月7日、米大統領選挙でオバマ大統領が共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事に勝利し、再選を果たした。しかし、結果はご存知の通り、同時に行われた議会選挙で上院が民主党、下院は共和党が多数を占めたことで、選挙前と同様の“ねじれ”が継続することになり、「財政の崖」の問題が大きくのしかかっていることは、さまざまなメディアの報道にある通りだ。

 だが、実態にはそんな生易しいものではない。オバマ政権の継続は、米国を経済危機に陥れる可能性が大きい。

 ブッシュ減税と強制的財政削減が同時に重なる“財政の崖”。その原因となったのは、2011年の連邦政府による債務残高上限問題(アメリカでは、国債の発行に上限を設けており、11年8月にその上限に迫ったため、国債発行額を引き上げた)にあった。そしてアメリカでは、今年もその債務残高上限額に迫っていることは、ほとんど報道されていない。

 11年夏に債務残高上限を引き上げるために成立した、財政管理法の規定に基づき、連邦政府に認められている現在の債務残高の上限は16兆3940億ドルだが、米財務省は「年末近くには、上限に達する」ことを明らかにしている。

 13年度予算(12年10月から13年9月)については、来年3月までの暫定予算が成立しているものの、暫定予算の期限切れになるまでに本予算を成立させる必要があるが、“ねじれ”状態の議会では予算成立は困難を極めるだろう。また、オバマ大統領は来年3月頃までには、再び債務残高の上限を引き上げる措置を取る必要があるが、こちらも11年同様にこうした回避策の成立は大揉めに揉めると予想される。

 オバマ政権が誕生した09年以降、経済再建はほとんど進んでいないのが実態だ。大統領選挙に向けて改善傾向にある失業率は、本当に改善しているのだろうか? 実は、改善されているように見える失業率は、厳しい就職難に嫌気をさして労働意欲をなくし、労働市場から退出した離職者が統計上、失業者にカウントされていない影響が大きい。企業による採用が増えたためではなく、職を求める人が減っているのが現実なのだ。

 アメリカの企業は08年から約2年間で870万円ほど減らした雇用を10年前半から戻し始めているが、その数は約400万人に過ぎない。08年以降の労働参加率がその後も変化せずに、その間に離職した者が、失業者として労働市場に残っていたとすれば、12年の失業率は7.8%ではなく、11.3%となるという推計もある。

 また、一部では住宅市場の改善も見られるようになっている。しかし、個人家計ローン全体の7割を超える住宅ローンの延滞率は08年に急上昇してから高止まりしたままだ。住宅市場の改善は、FRB(米連邦準備制度理事会)が進めるQE3(量的緩和第3弾)により、住宅ローン金利の低下と、12年9月からの「無期限・無制限」にMBS(住宅担保証券)の購入を行っていることが大きい。

 結局、住宅市場の改善は、住宅を持たない人々が住宅を購入しているのではなく、富裕層が住宅を購入して賃貸住宅として転用し、資産運用を図っている側面が大きい。米国の持ち家率が上昇に転じていない一方で、賃貸住宅が増加している事実が、住宅市場の改善は本物の実需ではなく、投資家による住宅取得であることの表れだ。

 米国の失業保険は各州の失業保険法に基づき、失業者に対して就業中の収入に応じた給付金が支払われる仕組みとなっている。給付金の支給額や給付期間は州ごとに異なるが、大半の州は26週間にわたり支給を行う。ただし、現在は不景気で、雇用環境が著しく悪化していることから、連邦政府と州政府の共同プログラムに基づき、給付期間が終了した失業者を対象に給付金の延長支給が行われ、99週まで延長給付が実施されている。

 食料補助は、低所得者を対象に現金の支給や現物給付を行っている。食料補助の現金支給制度(フード・スタンプ・プログラム)の利用者は、リーマン・ショック後に急増し、12年6月時点で4667万人と過去最高となった。夫婦と子供2人の標準世帯で月額所得が2400ドル未満の世帯に、1世帯当たり277ドルの現金給付を行う。

 米国の貧困者(4人家族で年収2.3万ドル以下)は4618万人と過去最多で、貧困率は15.1%と6人に1人にのぼる。

 米財務省によれば、今年9月に終了した12年度の連邦財政収支は、1兆890ドルの赤字になった。1兆ドルを超える財政赤字は09年度以降、4年連続となる。こうした状況を改善するためには、財政削減は避けて通れない道筋にある。しかし、財政削減を確実に実施するためには、失業保険の削減、食料補助の削減といったものに手を付けざるを得ない。

 そうなれば、米国の貧困率は一段と悪化する可能性がある。オバマ政権が“夢を持って打ち出した”「グリーン・ニューディール政策」は、財政削減の影響で実行のための予算が確保できない状況に追い込まれ、事実上の廃案となるだろう。“夢は破れた”のだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)

鷲尾香一/ジャーナリスト

鷲尾香一/ジャーナリスト

本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。

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