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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第4回

トヨタ景気回復でもディーラーは違う?3月上旬まで超安値で車を買えるカラクリ

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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トヨタ景気回復でもディーラーは違う?3月上旬まで超安値で車を買えるカラクリの画像1「トヨタ自動車HP」より

数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

景気は回復してきましたか?」

 会う人、会う人に、私は最近このように訊ねている。

「飲食店の予約は増えてきたのか?」
「スーパーの客単価は増えているのか?」
「法人契約は順調か?」

 このようにいろいろな人に訊ねてみると、景気回復にはまだら模様のタイムラグがあることがよくわかる。

 真っ先に景気がよくなっているのは、円安と株価上昇の恩恵に直接あずかっている人たちだ。トヨタが連結営業利益で1000億円の上方修正を発表するなど、1~3月期の円安効果だけでも通年の業績回復に十分なインパクトが出てきている。

 実際、輸出産業の方たちに話を伺うと、足下の業績については早くも楽観的である。証券や銀行でも雰囲気は同じ。富裕層顧客は株価上昇の恩恵を受けて、さらなる投資の意欲も高い。現場での投資信託の販売目標も上がっている。その結果、日常消費の財布の紐もゆるみ始めているようだ。

●景気回復のライムラグ

 一方で、当然これから景気がよくなってくるはずの業界なのに、その兆しが見えずに焦りを見せているところもある。景気回復にはタイムラグがあるのだ。

 法人需要の乗数効果のように、円安で儲かった企業が久しぶりにオフィス家具を取り換えるといった経済循環による需要が出てくるのはこれから先だ。公共事業もこれから大幅に増えそうだが、多くは来年度予算の話になる。

 そのようなタイムラグで、景気回復が遅れてやってくる典型的な業界が、自動車のディーラーであるというのが、過去1カ月、草の根リサーチを行ってきた私の発見だ。

 例年、2〜3月というのはディーラーにとってかき入れ時である。1年前のデータを見ると、10~12月の国内の登録車の販売台数はだいたい月22万台前後、それが1月に26万台、2月に33万台、そして3月には49万8000台と販売台数は急激に伸びている。

 例年このような傾向は同じ。過去10年でこの傾向が外れたのはリーマンショック直後の09年の3月と、震災のあった11年の3月。それ以外の年は概ね1~3月の四半期で、ディーラーは1年間の3分の1近くの台数の自動車を販売する。

 それが今年はというと、昨年11〜12月は前年比97%程度と、まあそれほど悪くはない成績でしのいできたのだが、今年1月になって、登録車の販売台数は前年比87%と大幅に落ち込んでしまった。

 そして2月に入っても、まだディーラー店頭に顧客が戻ってきていないのだ。

 これは私の分析では典型的なタイムラグ現象。1月になって業績が戻った企業の社員のボーナスが(ちょっとだけ)増えるのは今年の6月。株や投資信託ですでに含み益が出た人たちも、これから1ドル=100円に向けて経済がいい方向に動きそうだからということで、まだ現金化はしていない。

 だから自動車ディーラーの店頭に本格的に消費者の足が戻るのは、今年の5月以降だと私は読んでいる。このようなタイムラグのおかげで、円安による輸出効果で業績が上がるトヨタを尻目に、国内のトヨタディーラーは3月決算期に向けて冷や汗をかいているのだ。

●ディーラー内では大幅な値引きオーケーの号令?

 自動車ディーラーにとっては、もうひとつタイムラグの問題がある。

 お客様が「車を買います」と決めた段階では売上がたたない。登録して納車した時点で、経理上の前受金が売上高として計上できる。「カンバンシステム」で名高いトヨタの場合は、受注状況を見ながら車を生産していく。つまり、すぐに納車できる在庫車はそれほど多くないという事情があり、通常は2月中旬に注文があった車の納車は3月上旬になる。

 つまり同じペースで考えれば、3月上旬に契約が成立した分までしか、3月内に納車できないことになる。今期の売上高を確保するには、残された時間はあと1カ月もないのである。このように厳しい2月になって、ディーラー本部では販売台数を確保すべく、大幅な値引きを武器にしてもよいという号令がかかっているのだ。

 実はこのような情報を仕入れる過程で、この私も結果として車を1台、前倒しで買い替えることにした。店長決裁で、びっくりするぐらいの安値を提示してくれたからだ。

 ディーラーにとってもそうなのだが、われわれ消費者にとっても3月上旬までが勝負である。なぜなら景気回復が鮮明になる今年5月以降のボーナス商戦では、経済原理にのっとれば確実に車の値引き幅はこれまでよりも悪くなるはずだからだ。

 経済の世界では、ファーストムーバー・アドバンテージがある場合は少なくない。日本語で言えば、先に動いた人が儲かるという意味だが、今の経済環境はまさにそのような状況だ。たぶん今年の5月には、経済の新しい潮流がはっきりする。

 業績回復した法人需要が牽引車になって、景気はかなり回復する。その一方で、円安の影響もあり、さまざまな物価は少しずつインフレに向かうだろう。

 自動車の実売価格だけではない。ファッションブランドでも、現在はまだ1ドル=79円時代に仕入れた在庫分を安価な価格で販売しているお店が、在庫の仕入価格が1ドル=93円に移行するであろう今年の5月頃には、販売価格もそれだけスライドして上昇することになる。

 だから、この円安株高で懐具合がちょっとほっこりしてきた読者の方は、お金を使うなら今がチャンスだというのが私のアドバイスなのだ。

 そして、その中でも今、最大のタイムラグチャンスが訪れているのが自動車の購入という話なのである。チャンスはあと数週間。信じた者は救われるかもである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

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鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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