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日本の「水」に忍び寄る危機の本質とは?

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0223_sinkanjp.jpg※画像:『日本の地下水が危ない』
著:橋本淳司/幻冬舎

 数年前から、外国資本による日本の水資源の買収が相次いでいることが話題になっているが、その事態は深刻化しているという。

 これまで日本の水問題について執筆活動を行ってきたジャーナリスト、橋本淳司氏の新刊となる『日本の地下水が危ない』(幻冬舎/刊)は、水資源をめぐる諸外国の動きや、日本が水問題に対してどのように取り組んでいるのか、そして今の課題について迫っている一冊だ。

 新刊JPニュースでは今回、橋本氏に対して、本書の内容を中心に自治体が地下水の危機に対しどう取り組めば良いのか、報道の裏で一体何が起きているのかについて質問することができた。今回はインタビューのその前半をお送りする。橋本氏の提言は重要な示唆を与えてくるだろう。
(文=新刊JP編集部)

  ◇    ◇    ◇

―まず、日本の地下水がここまで海外資本の手に忍び寄られているとは思いませんでした。以前にニュース番組でこうしたことが起きているということは見たことがありましたが、日本人はまだこのことに無関心であると思いますが、橋本さんはどのようにお考えですか?

「多くの人は、水や食料を商品として考えることはできても、実際にその水がどこからやってくるのか、食料がどこで生産されているのかをリアルにイメージすることができなくなっています。

 水道水、ペットボトル水、宅配水など、生活していくのに水は欠かせませんが、それらは蛇口から出るものであったり、スーパーで売られているものであったり、軽トラックで運ばれてくるものであったり、いずれも商品です。消費者が商品に求めるものは価格と品質のみ。生産過程にはたずさわっていないので水源のことは考えません。水源地の買収、水源の枯渇とメディアで報じられても、遠い国の出来事のようにしかとらえられない。じつはここに危機の本質があります」

―この水資源の危機は、単なる海外資本の進出というだけの話ではなく、日本における農村の衰退やコミュニティの崩壊、さらには先祖伝来の土地を守るという伝統的価値観の消失といった、構造的な問題も含んでいるように感じますが、橋本さんはどのようにこの危機の要因を捉えていますか?

「海外資本が買うと言われますが、見方を変えれば売っている日本人がいるということ。林地が売られる原因の1つは林業の低迷です。日本の木材自給率は2割。外国産材があふれ、生産コストや人件費がかかる国産材の需要は減少し、林業は商売として成り立たなくなりました。そのため山を手放したいという地主が増えました。

 収益は生まず、管理費用と税金だけがかかる林地は地主にとって重荷です。「外国人だろうと日本人だろうと買ってくれるなら誰でもいい」「水が欲しいというのなら水はある。外資だって金さえ出してくれるなら売ってしまいたい」と言い切る人もいます。
森は保水機能、浄水機能をもち、地主だけでなく周辺地域によい影響をもたらす共有資産ですが、そうした見方がされることはありません」

―橋本さんがジャーナリストとして取材や調査をするなかで、日本人が持っている地下水や水源に対しての価値観の変化を感じることはありますか?

「水の安全性を求める一方で、持続的な水利用という視点が欠落しています。2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、地下水利用は活発になりました。地下水は、水資源として安定していますし、取水が容易で費用が安い。

 そして放射性物質の影響を受けにくい。地表が放射性物質に汚染された地域でも、放射性物質は地表数センチのところに止まっているため、深いところにある地下水は影響を受けにくい。地下水が直接汚染されない限り、表流水よりも安全だといえます。

 震災後の1年で掘られた井戸は2万本と推計されています。個人による地下水利用が増加したこともありますが、企業の地下水利用、既存ボトル水メーカーの増産、ボトル水事業への新規参入も増えました。2011年のペットボトル水市場は、生産量317万2207キロリットル(前年比26%増)、販売金額2347億5200万円(同26・72%増)と量も金額も大きく伸びました。

 外国資本が森林を買収、水資源に近づいていることはメディアで報じられていますが、既に、中国富裕層向けの宅配水事業が始まっていることはあまり知られていません。中国資本の水源地買いには神経を尖らせるマスコミも、日本企業が水源地を購入、外国に持ち出すことには寛容です。

 これだけ地下水利用が活発になると『枯渇しないだろうか』という懸念が当然起こりますが、地下水量は把握されていません。自治体で地下水量のデータをもっているところは、ごくわずかです」

―現在、中国やシンガポールが日本の水源を狙っているとありましたが、今後、日本へ食指を伸ばす海外諸国や海外資本は増えていくのでしょうか。

「『水源地を買収したからといって、地下水をポンプで汲み上げ、輸送するには莫大なコストがかかる。だから外国資本が林地を買ったからといって、それは水目的ではない』『水はコストをかけて輸送するより領海の海水を淡水化した方が安く、安定供給できる』という見方があります。

 外国資本が林地を買い、水を汲み上げたとしても、それをどのように運ぶかがポイントになるのですが、じつは思わぬ方法で水を運ぶことができます。土地を購入して水資源を奪うという意味は、水を運びだすとは限らない。そこで農業をして、できた食料を運び出すという方法があります。

 エチオピアでは未開発地が中国など外国資本に次々に借り上げられています。国内で未開発の耕作適地は6000万ヘクタール。日本の国土の約1.6倍です。50~99年の長期契約で、借地料は1ヘクタール当たり年間10ドル程度。ですが農産物は輸出用で、地元農民の口にはほとんど入りません。エチオピア国民の1割に相当する800万人が現在も食料支援に頼って生きています。これはエチオピアのなかに中国ができたのに等しいのです。

 外国資本が日本で農地を購入する可能性もなくはありません。日本の農地は狭く、大規模集約型の農業には適さないとして、いまは注目されていません。しかし、深刻な水不足になればどうでしょう。広くて水のない土地と、狭くて水が豊富にある土地で、どちらが農業生産に適しているか。

 そこで地下水を汲み上げ農業を行い、自国に食料を輸送します。それが大量の水を効率よく奪う方法だからです。地域にとって農地を失うことは、単なる生産の場を失うことではありません。共同体を失いことでもあります。地域の人間関係が消え、そこに育まれた文化が失われます」

―橋本さんは本書で地下水を管理する法律がないことを指摘していますが、これまでの地下水の管理はどのように行われてきたのでしょうか。

「よく外国人に『日本で土地を買うと地下水が好き放題くめるというのは本当か』と聞かれます。『好き放題というわけではないけれど、土地所有者に地下水利用権がある』というと、とても驚かれます。

 民放第207条に『土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ』という規定があります。つまり、法的には土地の所有者に、その地下にある水の利用権があると解釈されています。

 地下水はこれまで『私のもの』と解釈されてきました。昭和13年の大審院の判決では、『土地の所有者はその所有権の効力として、その所有地を掘削して地下水を湧出させて使用することができ、例えそのために水脈を同じくする他の土地の湧水に影響を及ぼしても、その土地の所有者は、前者の地下水の使用を妨げることはできない』とされています。でも、当時は手掘りの井戸で小規模な取水しかできなかった時代です。揚水技術の発達した現代と状況は明らかに違い、これを拠り所にするのは時代錯誤といえます。それに地下水は、地面の下に止まっているものではありません。地下水は地下を流れる川なのです。だから土地所有者のものであるという考え方は、実態と違っています。

 たとえば飲料水メーカーの取水口があるとします。このメーカーは自分の土地の下にある自分の水を汲み上げているわけではなく、自分の土地の下を流れるこの地域の共有物を汲み上げていることになるのです」
 
(後半へ続く)

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BusinessJournal編集部

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