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ぼくらはあの頃、アツかった(18)クリスマス。北斗の拳。電気屋の巨大画面で黄色い雑魚をぶっ飛ばした青春。

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 筆者は大学を休学してアルバイトをしていた。

 電気屋の店頭での回線営業である。ブロードバンドルーターを配って名前を書いてもらう感じだった。時給がかなり高かったし、また、中学時代からの友人と2人でやってたので自由も効いた。2人で交代にタバコ休憩をとったりゲーセンに行ってバーチャファイターやったりしてたので、実労働時間はかなり短かった。その労働の最中もまたほとんど遊んでるようなものだったので、実際の所なにもしていないのと同義である。ただ街の中で突っ立って、パチスロ雑誌を読んだりナンパしたり笑ったりしていただけだ。

 当時筆者たちが軒先を借りていた電気屋には色々な人がいた。

 我々のように回線などの営業を行う為に来てた人もいるし、また、メーカーからのヘルパーもいる。もちろん電気屋本体の社員さんも居るので、小さい店ながら30人くらいは人が居たのではないだろうか。

 中でも、電気屋本体の社員の「Wさん」と「Nさん」という人が尖っていて、筆者は彼らの事が未だに忘れられない。2人はスロッターであった。しかもかなりヌルいタイプの──もっと言えばとある限定した機種しか打たない……要するに、北斗世代の、北斗限定の、北斗ファンのスロッターだったのである。

 Wさん──彼はフロア主任のような立場の男だったが、ある時彼がスーツで出勤してきた。外商か研修か何かスーツを着てこなければならない用事でもあるのだろうと思ったが、実際は違った。そのスーツ姿を筆者に見せる事、それ自体が目的であった。軒先でルーターを配っていると、Wさんに呼ばれた。なんですか。あらスーツですね。どうしたんですか。尋ねる筆者に、Wさんは意味深な微笑みを向け、ジャケットの胸元をちらりと開いた。

 スーツの裏地には金色の刺繍があった。覗き込む。通常は名前が刺繍してあるべきその場所には「世紀末覇者ラオウ」と書いてあった。

 筆者は無言で頷いた。Wさんも無言で頷く。次にそのWさんの弟分のNさんが出勤してきた。スーツだった。嫌な予感がしたが、予想通り手招きで呼ばれたので無表情で近づいた。Nさんがニヤニヤしながらジャケットの胸元を開く。覗き込む。

 そこには「愛深きゆえに愛を捨てた男」と書いてあった。

「……なんでサウザーって入ってないんすか」
「文字数12文字まででさぁ」
「なるほど……」

 2人は凄いバカだった。

 あれはクリスマスだったと思う。

 閉店後に、店の中でちょっとしたパーティをしよう、という流れになった。

 準備をしたのは店の新入社員で、軒先を借りてルーター配ってるだけの我々にも声がかかった。一瞬どうしようか迷ったが、まあどうせ出勤日だし、顔だけだそうかと思って「行きます」と答えた。

 街はすっかりお祭りムードだった。イルミネーション。クリスマスキャロル。広場には巨大なツリーが設置され、キラキラと輝いていた。ケーキやチキンの出張販売がカートを引いて街を行き交い、まさしく路面店の軒先でルーターを配ってる我々にも何度も声がかかった。

 筆者達が居る場所の目の前には巨大な長机が設置されていた。商店街のイベントで、街全体でクリスマスパーティをやるらしい。右手の十字路──飲み屋と市場、書店と銀行に囲まれた一角が広場のようになっていて、白い服を着た料理人が必死の形相で巨大なカレー鍋をかき混ぜていた。どうやら無料で振る舞うらしい。ノンアルコールのシャンパンもあった。

 狂乱。お祭り。メリー・メリー・クリスマス。夕方になると、街の混雑はカオスになった。長机には人種や年齢・性別や身分を問わず有象無象の人々が座り、コンビニで買ったビールや無料のシャンパンを飲み飲み、カレーやチキンやケーキを食べて騒いでいた。筆者と友人も、制服のままそこに座ってカレーを食べたりした。ちょっとお酒も飲んだ。そういう時代だったし、そういう街だったので、別に怒られなかった。

 もちろんルーターも滅茶苦茶配った。

 八時を過ぎ、筆者達の仕事は終わった。ブースを片付け、街の喧騒に後ろ髪をひかれる思いで店の中に入ると、スタッフが光速で閉店準備をしていた。同時進行でパーティの用意も進む。八時半ジャストにシャッターを締めた途端、誰かがクラッカーを鳴らした。

 メリークリスマス!

 参加していたのは十五人くらいだった。会ったことのない、他店の人もいた。缶ビールで乾杯しながら、用意されたお菓子と、それからケンタッキーのチキンを食べた。店長は「絶対飲み物をこぼすなよ」と言いまくっていたが、その顔は笑顔だった。一時間ほどくだらない話をしながらお酒を飲んでいるとき、WさんとNさんがおもむろにバッグを持ってきて、中からプレステを取り出した。なんだか嫌な予感がした。

 さすがは電気屋だけあって、二人の準備は異様に早かった。一瞬でまだ出たばっかりの大型TVにD端子を接続し、店で一番高いホームシアターシステムに光デジタル端子をひっぱって音響を整えた。電源も確保し、店の照明を落とす。何が始まるのか。と事情を飲み込めない何人かがワクワクと画面を眺める。

「桃鉄でもやるのかなぁ」

 一緒に働く筆者の友人が赤ら顔で言った。どうかそうであってほしいと筆者も思ったが、やがてNさんがバッグからパチスロコントローラーを取り出した所で、筆者の悪い予感は確信に変わった。
WさんとNさんが、高らかに宣言する。

「ではこれから、北斗の拳大会を開催します!」

 二人は、本当にバカだった。

 最初はトホホという気分で筆者も付き合ったが、なんだかんだで、とても楽しかった。薄暗い店内。大型TVを前に黄色い雑魚をぶっ飛ばしていると、なんだか不思議な気分になった。
世界中で、今何人の人間が北斗の拳を打っているのだろう。

ホールで。あるいは自宅で。あるいは電気屋で──。

 2005年末。まだ初代北斗が現役の頃である。北斗の拳が世界に遺したものは、大量の「北斗世代」と、それから沢山の想い出と。友達と。恋人と。家族と。お金と、借金と──。数え切れないくらいの素敵なエピソードや、苦い思い出や、快感や、くるしい気持ち。

 窓の外から聞こえてくるクリスマスキャロル。

十年以上経った今思い返すと、その全てが愛おしい。サミーが生み出した名機「パチスロ北斗の拳」の時代。それは取りも直さず、筆者の「青春時代」であった。

【あしの】都内在住、37歳。あるときはパチスロライター。ある時は会社員。年末くらいからライター一本で頑張ります。ブログ「5スロで稼げるか?」の中の人。

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