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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第28回

出世の条件は不倫!? ロンドン赴任の新聞記者を追いかけ愛人と妻が現地で大騒動!

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 村尾がデスクとしてロンドン支局に赴任したのは1990年(平成2年)春だった。その1年後に経済担当の駐在記者として派遣されたのが経済部一筋の小山だった。村尾は政治部と経済部の間を行ったり来たりだったこともあり、同じ記者クラブで小山と一緒に仕事をしたことはなく、2人はロンドンまでは特に親しい関係ではなかった。

 記者としての能力は、実績が全くなく記事の書けない村尾に対し、小山は「中レベルの中」といったところで、村尾より上だった。海外駐在記者は取材するというより、現地の報道を小器用にまとめて日本語で伝えるのが仕事になっているのが大手新聞の実態だ。畢竟、その選定基準は、語学が堪能か、業界紙を補強取材して大きな記事をでっちあげる小山のような能力があるか、2点のどちらかをクリアしていることが重視される。

 外目には小山がロンドンに派遣されるべくして派遣されたと映ったが、実際は違った。村尾の愛人、由利菜のニューヨーク行きと同じで、ある意味で隔離だった。派遣前の2年間、小山は兜倶楽部(東京証券取引所記者クラブ)に所属、キャップとして証券業界を担当していた。そこで、部下だった8歳年下の補助記者と不倫関係に陥ったからだった。

 国内の補助記者は短大卒の女性社員の肩書で、兜倶楽部では正記者の指示で上場企業の決算資料を見て短い決算記事を書いたり、東証二部相場を取材したりするのが仕事だった。大手新聞が女性記者を本格的に採用し始めるのは90年代に入ってからで、それ以前は婦人部などごく一部で女性記者を採用することが稀にあっただけで、政治部や経済部には女性記者は皆無と言ってよかった。当時、補助記者は兜倶楽部に2人いたが、男社会の紅一点といった感じで、若い男性記者たちからモテモテでもあった。

 件の補助記者は恋多き女だった。兜倶楽部に席を置く前は本社の経済部でデスクの補助をしていた。補助と言えば聞こえがいいが、実際は電話番と雑用係である。この仕事を5年間やったのだが、その間にデスクの一人と不倫関係になって、兜倶楽部へ異動後も、その関係は続いていた。しかし、小山が兜倶楽部のキャップになると、すぐに別れ話が持ち上がり、彼女の相談に乗るようになった。それがすべての始まりだった。結局、ミイラ取りがミイラになってしまい、今度は小山が修羅場を迎えることになった。

 小山には入社1年後の昭和51年に結婚した妻がいた。学生時代からのライダー仲間だった2歳年上の女性で、子供はなかった。妻の方はスレンダーな美人だったが、補助記者はグラマラスな女だった。小山はその豊満な体に溺れていき、1年もすると、自宅にあまり帰らなくなった。誰だって、夫が不倫していると思う。それでも、夫婦2人だけの間の確執にとまっていれば、会社が関わることはない。しかし、小山の妻は勝気な女だった。

 小山の上司はもちろん、人事部にも問題を持ち込んだ。会社も見て見ぬふりはできなくなった。小山をロンドンに出して、妻とも不倫相手の補助記者とも離れ離れにしようとしたのだが、それが火に油を注ぐ結果になった。赴任して1カ月後である。愛人の補助記者が妊娠を理由に依願退職、ロンドンで小山と同棲生活を始めた。それを察知した妻の方も負けじとロンドンに向かい、ロンドンを舞台にバトルが繰り広げられたのだ。

 逃げ回る小山を追い回す妻の執拗さは鬼気迫るものがあった。シティには東京時代からの小山の取材先の金融マンが少なからずいた。そうした金融マンの自宅にまで押し掛け、シティの日本人の間で評判になった。挙げ句の果てに、妻がロンドンのホテルで自殺未遂するというところまで、騒動は発展したのだ。これが小山の不倫事件の経緯である。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週4月26日(金)掲載予定です。

BusinessJournal編集部

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