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シリアルアントレプレナー・小川浩「Into The Real vol.24」

AKB総選挙経済効果200億円に透ける、日本のベンチャー市場のガラパゴス化懸念?

文=小川浩/シリアルアントレプレナー
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AKB総選挙経済効果200億円に透ける、日本のベンチャー市場のガラパゴス化懸念?の画像1「AKB48 32ndシングル選抜総選挙」開票イベントの模様(撮影=岡崎隆生)

 現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。『ソーシャルメディアマーケティング』『ネットベンチャーで生きていく君へ』などの著書もある“ヴィジョナリー”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。

 AKB48選抜総選挙の経済効果は、少なく見積もっても200億円以上とのことだ。なんとも驚くべき数字だ。AKB48をはじめとする、日本のエンターテインメントシーンを牽引している多くのグループ(EXILE、モーニング娘。もしくはジャニーズなど)の共通点は、グループのメンバーに新陳代謝があるということだ。つまり、メンバーは卒業という名のメンバー離脱と新加入を繰り返し、いつの間にか構成メンバーがまったく違ってしまうのに、グループ名は同じままだ。構成メンバーの個性で人気を博しながらも新陳代謝を取り入れることで、結局はグループのブランドを維持させていく。

 同じグループが世代交代しながら存続していくというスタイルは、日本独自のカルチャーなのではないかという気がする。少なくともアメリカのミュージックシーンに、完全にメンバーが入れ替わっても現役で活動しているバンドやボーカルグループを僕は聞いたことがない。このような構造は、ちょっと前の“ケータイ市場”のように“日本のガラパゴス化”の一つと数えるべきか。それともクールジャパンの事象と考えるべきだろうか。

景気がいい米国スタートアップ事情

 さて、5月に米Yahoo!がメディアミックスブログサービスを提供するTumblrを11億ドル(しかもキャッシュ)で買収するという衝撃的なニュースが流れたばかりだが、今度は数秒間で消える時限写真共有サービスのSnapchatが、1億ドルの資金調達に成功したという。米国のスタートアップ(ベンチャー企業)事情は、やはり日本とは桁違いに景気がいい。

 Snapchatはほとんど売上を上げていないが、プレマネー(出資候補者に対して提示される、出資前の会社の評価額)5億ドルという高い評価を受けた。ちなみに1億ドルの投資を受けた後の評価額をポストという。つまりSnapchatの最新の企業価値はポストで6億ドル、となる。6億ドルといえば日本円で約600億円だが、ソーシャルメディアの分野で比べると、最近経営陣を刷新したmixiの時価総額の2.5倍以上に相当する。

 ちなみに、やはりほとんど売上がないとされるPinterestの直近の評価額は25億ドル(2500億円)。これは2013年6月時点のGREEの時価総額2200億円を上回り、同業のDeNAの3000億円に迫る数字になる。

 未上場でこれだけの価値を生み出せるスタートアップは日本国内ではありえないのだが、米国では創業2〜3年で達してしまうスタートアップがゴロゴロしている。金額感でみると、米国と日本のスタートアップ市場規模の大きさは10倍くらいの差があるようだ。

 典型的なスタートアップの創業と成長、そして出口戦略(イグジット)を考えると、創業時のシードマネー(初期投入資本)の調達から始まって、いくつかの段階(シリーズA、B、Cといった具合に刻む段階)を経て開発資金や、ある程度の初期ユーザーを獲得したら次に事業拡大のためのマーケティング資金の調達を行う。そして実際の売上を上げ始めたら、IPO(株式公開)もしくはM&Aのイグジットを具体的に考えるステージに移るという流れをたどる。

シリコンバレーと遜色ないところまできた日本

 シリコンバレーのメソッドと日本のスタートアップ市場のそれを比べてみると、2013年現在では創業時のシードマネーの獲得のしやすさや、それなりの評価額をつけてくれる投資家(エンジェルやアクセラレーター)の数も増えてきており、それほど遜色ないところまできていると思う。

 さらに、開発資金や初期のマーケティングコストをまかなうだけのミドルステージの資金調達に応じてくれるVC(ベンチャーキャピタル)も、だいぶ充実してきており、金額の大きさこそシリコンバレーにまだまだ及ばないにせよ、勝負にならないということはない。

 問題なのは、イグジットの大きさだ。IPOもさることながら、米国ではGoogle、Microsoft、Yahoo!、Salesforce、Amazonなど、10億ドル以上のM&Aに応じるスポンサーになり得る企業が多く、積極的に本業での事業拡大に動いている(彼らはインターネット企業としての本業から外れることはほとんどなく、スポーツ団体を買うこともないし異業種への進出もない)。

 スタートアップの買い手という意味では、物流会社やメディアなどが、それなりにキャッシュフローがある既存事業を買うか、Acqui-hireと呼ばれる人材目当ての小規模の買収ならば、だいぶ日本でも増えてきているが、スタートアップの将来性と技術力やサービスそのものの価値に応じた買収はまだまだ少ない。イグジットにおいてM&Aがもっと活性化すれば、そのカウンターパートとしてIPOも大型化するはずなのだが。

 例えば、日立製作所やソニーなどの電機メーカーが、もっとテックベンチャーへの投資やM&Aを考えるようになるという流れは生まれないものか? AKB48のように、日本ならではのカルチャーに支えられたビジネスモデルが大きな経済効果を生んでいることは悪いことではないが、日本独自のイグジットをつくることで、市場全体の新陳代謝を生み、長期の停滞を抜けて再び日本経済が急成長していくための素地となると思う。
(文=小川浩/シリアルアントレプレナー)

小川浩/シリアルアントレプレナー

小川浩/シリアルアントレプレナー

シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。

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