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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第12回

国際問題化するブラック企業〜今後日本で解消どころか、ますます広がると“確信”する理由

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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 店長が守るべき規則は53あって、すべてマニュアル化されているという。日本では当たり前の荷物検査や抜き打ち検査も、フランスでは従業員にプレッシャーを与えるための手段だと認識されていたという。

 店長の管理業務のマニュアルには、「分不相応に贅沢をしている従業員はいませんか?」「頻繁にトイレに行く従業員はいませんか?」といったチェック項目が並ぶ。聞いただけで嫌になる気分がする項目なのだが、実はこのようなマニュアルを店長に渡す別の意味があるというから面白い、いや恐ろしい。

●経営戦略としてのブラック企業

 番組に登場する弁護士の証言では、このようなブラック企業の問題は、権限の乱用にあるという。すべての階層に脅しやいじめが存在する。会社の中は恐怖が蔓延している。従業員は何をしていても「解雇されるのではないか」と、いつも怯えている。

 これらの点は、番組に登場するさまざまなブラック企業に驚くほど共通する点だ。つまり問題は、それが偶然ある会社に起きていることではなく、じっくり練り上げられた経営戦略であるという点なのだと、この弁護士は強調している。

 そのような恐怖政治を敷き、組織のあらゆる階層に支配者がいて、お互いの信頼がないほうがマネジメントしやすい。彼らの目的は仕事上の人間関係をできるだけ分断することで、集団としての結びつきが生まれるのを避けることだという。ひとりひとりを孤立させることを目的に、仕組みがつくられている。そのほうが労働争議が起きるために必要な一定規模の集団が生まれない。そのためにブラック企業というマネジメントスタイルを選択するのが、その企業にとっての経営戦略だというのだ。

 実際これらの企業の仕組みを作った元幹部の証言では、従業員に求める人物像として、質素な生活をしていることや、称賛を求めないこと、安定した家庭がある一方であまり社交的ではないという点まで、決められていたという。つまり徒党を組んで反旗を翻す可能性が少ない性格で、反旗を翻すと生活に支障を来す人材を選んで採用しているのである。

 番組最後に撮影クルーは、ルーマニアの自動車工場で働く労働者のもとを訪れる。ルーマニアはEUに加盟しながらユーロには参加しないという、独特で有利なポジションにいることで、EU内の低価格労働需要を支えることに成功している。この工場ではフランスの自動車ラインをそのまま移転してきて、そこでルーマニアの賃金水準で働く従業員を活用している。ルーマニアでは熟練工の月給がユーロ換算で400ユーロ程度(約5万円)と、同じEU圏の中でも労働コストが非常に安い。地続きのヨーロッパにこのような低コストの労働力が出現したからこそ、冒頭でお伝えした5000ユーロのセダンがフランス国内で市販されるようになるのである。

●TPPがブラック企業問題を深刻化?

 さて、なぜヨーロッパの企業がここまでブラック企業になっていったのか、私なりに総括してみよう。

 キーワードはEU統合にある。同じ経済域内にヨーロッパ各国が統合された結果、法律や労働ルールについて、企業側にとっての“いいとこどり”が進んでしまっている。パイロットやCAはアイルランドの労働法規にのっとって会社と不利な契約を行い、ドイツで開発された軍隊的な労務マネジメントの仕組みがフランスに輸入される。フランスの工場労働者は、ルーマニアの工場労働者が作る商品と競争を余儀なくされている。

 これは日本にとって対岸の火事なのであろうか?

 私はそうは思わない。先日も、TPPに中国が加盟するというニュースが流れたばかりだ。基本的に関税だけでなく非関税障壁までなくす巨大な経済圏が、アメリカ、オーストラリア、中国と日本の間で結ばれれば、アメリカや中国の労務ルールを採用している会社が日本企業のダイレクトな競争相手になる。ないしは日本の労働者が日本国内で働いているにもかかわらず、アメリカや中国の労働契約に実質的に基づいて雇用されることが合法と見なされる可能性もある。

 実際、日本にあるアメリカの大手ネット通販企業の物流施設における労働環境が劣悪だという報道がなされているが、同社日本法人は日本国内で事業を行っておらず、法人税も払わなくていいことになっている。日本の労働法規に日本の労働者が守られている現在ですら、このように外資企業は、ある種のアンタッチャブルな特権を振りかざしている。

 その状況を前提にして、日本が今後、大きな経済圏の中に呑みこまれていく未来を考えれば、ブラック企業問題は大きくなることはあれ、解決する方向にはない。「なぜならブラック企業の問題は国際問題なのだから」と私は考えているが、みなさんの考えはどうだろうか?
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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