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『アップル帝国の正体』著者・森川潤氏、後藤直義氏インタビュー

アップルの植民地化する日本メーカー、支配されるキャリア…アップル依存の代償と実態

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 しかし、アップルという世界的な企業に部品を納められるのは名誉だと喜んではいられない状況です。どういうことかというと、アップルがiPhoneを発売して以来、世界中の生産委託メーカーに言い続けてきているのは、「世界で一番質の高いものを、世界で一番安く提供してください」ということです。あまりにも量が膨大なので、メーカー側はアップルを無視したらビジネスに乗り遅れてしまう。しかも、世界で一番品質の高いものを求められ、要求に応えているうちに、日本の部品産業は徐々にアップルへの依存度を強め、下請けメーカーに成り果ててしまったわけです。

–それほどまでに日本メーカーのアップル依存が進んでしまったのは、なぜですか?

後藤 誰もが欲しがっているiPhoneを、「うちは扱っていません」という対応を5年間も続けたら、その間にお客が激減したドコモのように、扱っていなければビジネスを継続できないほどの商品になってしまった。部品メーカーにすれば、どれほど安かろうと、世界一売れている商品を扱う企業に部品を提供しなければ、工場を回せないわけですよ。今まではソニーやパナソニックをはじめとして、日本には世界を制圧していたメーカーがたくさんあったので、そこにくっついていれば自動的に注文をもらえました。しかし、今やソニーもパナソニックも惨憺たる状況になっていて、気づいたら注文をくれるのはアップルかサムスンしかないという状況になってしまったわけです。だから、なんとかいいものをつくり、安くても買ってもらいたい、そういう事態が日本中の工場で起きているのです。

 その結果、液晶で一時は栄華を誇ったシャープですら、アップルからの発注がなければ即座に経営が立ち行かなくなるほどの“依存症”となり、アップルを頂点とする帝国の支配にすっぽりと入り込んでしまったわけです。要は、昔一緒に畑を耕していた友達がいつの間にか大地主になって、気がついたら自分たちを支配するようになっていたということです。

–そういうアップルの高い要求に応えるために、シャープは亀山第1工場をアップル専用工場にしたわけですね。

後藤 亀山工場というのは、世界初の液晶テレビの一貫生産のための工場で、第1工場が04年1月本格稼動しました。この工場で生産されたのが、シャープが世界に誇る 「アクオス」ブランドの液晶テレビでした。そして、一貫生産とともに亀山工場の象徴だったのが、生産技術の流出防止のために外から中をまったく見えないようにしたブラックボックス化でした。亀山第1工場は、丘の上にある工業団地の中に建てられた超巨大な箱の形をしています。

 そこで働く人たちや工業団地の工場経営者たちに綿密な取材を重ねた結果わかったのは、この巨大な箱がいつの間にか、iPhoneのためだけの巨大な箱になり、そこでは月間720万台のiPhone用のタッチ式液晶パネルが生産されているということです。

–亀山工場内には、シャープ社員ですら近づけない「アップル社員専用部屋」があるそうですね。

後藤 iPhoneの発売はアップルにとって年に1回の一大イベントです。発売予定日の3カ月前に、世界中の生産委託先工場での生産が一斉にスタートすると同時に、アップルのオペレーションズという部門の部品担当スタッフが世界中の工場に張り付き、お目付け役として監督します。iPhoneに使う部品のうちの一つでも欠けたら、製品が完成しませんからね。

 iPhoneの液晶パネルを供給しているのは世界で3社だといわれていて、そのうちの1社がシャープなのです。だから仮に亀山第1工場の生産ラインが止まったら、アップルの担当者はクビになるといわれているほどです。そして、その担当者のための秘密の部屋が亀山第1工場と第2工場をつなぐ中空の廊下にあります。この部屋は最大30人ほどが仕事をすることができるスペースで、アップルの担当者はここに駐留して、工場の生産を管理、コントロールしています。

 この秘密の部屋は、以前はシャープと付き合いのある日本メーカーが使っていた部屋だったのですが、シャープが自腹でそこを改装し、亀山第1工場を監督するアップル社員のために用意したのです。シャープ社員は、その前の通路を通ることすら禁じられているそうです。

●家電量販店もアップルの言いなり

–通常だとメーカーに対して強い立場に立つ家電量販店でさえ、「アップルにひざまずく」と書かれていますね。

後藤 米国でも日本でも、家電流通ではこの10年間で急激に寡占化が進み、巨大流通企業が誕生しています。アメリカでは、ウォルマートとベストバイ、この2社で電子AV製品の3~4割を販売しています。日本ではヤマダ電機が3割ですね。その結果、流通段階でのコストが高騰し、日本の家電流通業者が受け取るマージンは売上高の3割を超えるといわれています。つまり、メーカーはヤマダ電機にそれだけのマージンを払って、“売ってもらっている”わけですね。

 しかし、アップルの場合には世界中に400店を超えるアップルストアがあり、自社のオンラインストアでも販売していますから、家電量販店に“売ってもらう”必要はないわけです。しかも、量販店の店頭で他のメーカーの商品と値札を並べられることで、つるべ落としのように価格が下がってしまうということも防げるわけです。だから、メーカーと家電量販店というこれまでの力関係が通用せず、人気の高いアップルの製品を扱いたい家電量販店としては、利益を抑えてでも、アップル側の要求をのまざるを得ない。このような関係性は、日本だけでなく、他の国でも大差ないと思います。そして、家電量販店はアップル製品の利幅の薄さをカバーするために、周辺機器を大量に販売せざるを得ないわけですね。

 また、アップル製品に関して量販店が出すリリースも、例えば「発売からわずか3日間でiPhone 5sとiPhone 5cの2モデルの販売台数が過去最高の900万台に達しました」「これは世界最高の記録です」「素晴らしい顧客の反応です」というような内容のものをアップルが作成し、これを使ってくださいと量販店に送ってくるそうです。ある量販店の役員は、「そこまでするのかという感じですが、アップルの商品を扱いたいのであれば仕方ありませんね」とこぼしていました。

森川 キャリアも同じ状況です。自分たちの販売店で売っていても、自分たちでやれることはほとんどないのです。売り場のレイアウトなども含めて、すべて指導された通りです。

●アップルに手足をもぎ取られるキャリア

BusinessJournal編集部

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