ビッグデータ、幅広い業界でビジネス活用本格化~商品開発、情報提供…新たな課題も

「Thinkstock」より

 ビッグデータ、という言葉がIT系ニュースだけでなく一般のニュースでも使われるようになってきている。そのきっかけは、JR東日本が個人のSuica情報を外部へ提供したことが情報漏洩だと大きく報じられた件だったのではないだろうか。

 ビッグデータはIT業界内ではだいぶ前から人気のキーワードだったが、Suicaという多くの人にとって生活に密着したデータが対象となったことで、一般市民にも一気に身近になった。わかりづらさはそのままに、情報提供をしたとの断片的な事実だけが大きく報道された結果、「勝手に情報を売るのか」「個人情報保護はどうなっているのだ」と叩かれたのは記憶に新しい。

 同じようにNTTドコモ、続いてAmazonが他社に情報を提供して商品開発を行った時には、その是非はそれほど話題にならなかった。Suicaの利用方法などより、よほどパーソナルなデータを含んでいるAmazonの購買履歴が炎上ネタにならなかったというのは興味深い。

 情報提供のされ方はもちろん、報道のトーンによって受ける印象が違うという部分は大きいのだろう。しかし、そろそろ一般消費者も自分たちの行動がビッグデータとして売買されてしまうことに慣れ始めているのかもしれない。それくらい、身近にデータ活用の結果誕生した製品が増えてきている。

JR東日本が駅自販機とSuicaでつくった「フロムアクア」

 話題のきっかけとなったJR東日本だが、他社へのデータ提供ではなく自社での活用は以前から行っていた。JRの駅構内にある自動販売機はネットワーク接続されており、1台1台が店舗のように管理されているという。そして、駅利用客がSuicaを使って買い物をすればSuicaに記録されている属性データと購買データが結びつくわけだ。

 Suicaと自動販売機から得られるデータの分析結果で、オリジナルのミネラルウォーター「フロムアクア」が朝の通勤客に利用されているようだということが判明。これを元にインターネット調査をした結果「移動中に飲みたいのにペットボトルのふたを外して持っていなければならないのが不便だ」「ふたを落としてしまう」という声を拾うことができた。そこで生まれたのが、ふたが本体から分離せずに飲めるボトルだ。

VICSでカバーできない範囲の情報を拾う、ホンダの「internavi」

 カーナビにPHSの通信機能を搭載したり、携帯電話と接続させたりして会員の走行情報を取得して利用する、という取り組みもビッグデータ活用の1つだ。ホンダの場合「internavi」というサービス名で展開している。

 カーナビで表示する混雑情報はVICSが基本だが、これは主要幹線道路しか対象にしていない。そのため、抜け道だと思ったらそちらが詰まっていた、というようなこともあるわけだ。「internavi」の場合は会員からアップロードされる毎月1億kmのデータがあり、これを活用して、より詳細なカーナビへの情報表示を行っている。

Amazonの検索履歴等を活用したカゴメ「プレミアムレッド」

 Amazonが自社サービスの購買履歴や検索キーワードなどをビッグデータとして他社に提供し、商品開発に役立てるという取り組みの皮切りとなったのが、カゴメの「プレミアムレッド」だ。

「味が濃い」「食塩無添加である」などの消費者が求める傾向や、リコピンという成分が特に注目されていることなどをキーワード等から読み取り、これらを強化したAmazon専売製品として誕生したトマトジュースで、発売時にはそうした談話を紹介した記事などもあったはずだが、「Amazon専売」「濃厚な味」といった商品そのものに注目した記事が多く、ビッグデータ活用事例としては、あまり注目されなかった。

 しかしAmazonは今後、積極的にデータ活用をした商品開発を行う意向のようだ。

ビッグデータ活用に向けた法整備も始動

 すでに話題になったJR東日本、ドコモAmazonといった企業のほかに、Tポイントカードのカルチュア・コンビニエンス・クラブや、ヤフーとアスクルが共同経営しているロハコなども、ビッグデータ活用に向けたデータ提供を行うと表明している。

 先に紹介した事例も含めて、多少ズレが感じられるのは、情報を何に使うかということだ。「フロムアクア」や「internavi」は自社で取得したデータを自社内、またはグループ企業内で活用している。今のところロハコとAmazonは、データ提供の結果つくられた商品を自社で販売する方向だ。つまり自社商品の開発だと言えないこともない。

 こうした「自分で集めたデータを自分で使う」方向は比較的許容されている気がする。一方でSuicaのデータ提供で騒ぎになったように、集めたデータを販売するとなると抵抗が大きいようだ。勝手に取った情報を売るというのが、自分を売られるように感じるのかもしれない。

 感情的な問題はさておき、法的にはどうなのか。これまで「個人情報」という言葉には、その情報だけで個人が完全に特定されるものという意味があった。だから「毎朝7時にA駅でたばことコーヒーを購入する30代前半の会社員男性」などというのは個人情報ではないとされてきた。

 しかし、Suicaの情報提供騒ぎの時に、一つひとつは取るに足らない情報でも、かき集めた上でSNSの情報などと照らし合わせると個人が特定できてしまうのではないか、という指摘があった。これを受けて情報提供をするにあたっては個人特定ができないように加工することを義務づけたり、別のデータと組み合わせるなどして個人特定をしてはいけないというルールづくりをするなど、安心できるビッグデータ活用が実現するように法改正をする動きが出てきている。

 一方で、そうしたルールづくりによって「個人特定はできない」という前提で、取得したデータを第三者に対して本人の同意を得ないまま提供可能とする、という動きもまた加速しているという。

 すでに海外ではビッグデータ活用事例が数多くあり、今後は海外への情報提供や海外事業者からの情報取得といった活用方法も出てくることが考えられる。先行している欧米諸国と足並みを揃えたルールづくりを行い、活用を推進しようという狙いだ。

 自分の情報が利用されることの是非を個人が自由に決められなくなる流れの中、どうしても自分の情報は利用されたくないのであれば、ICカードやネットのアカウントを複数使い分けて趣味Aと趣味Bが結びつかないようにしたり、リアル店舗での現金購入に大幅にシフトしてポイントカードなども使わず、そもそも情報を渡す機会を減らすといった極端な対策をしなければならなそうだ。
(文=エースラッシュ)

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