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日本の自動車、世界最大の中国市場で苦戦の理由~安倍政権の外交力のなさが国益を損なう

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日本の自動車、世界最大の中国市場で苦戦の理由~安倍政権の外交力のなさが国益を損なうの画像1中国・上海(「Thinkstock」より)
 かつて「鉄は国家なり」という言葉があった。鉄鋼産業が国の繁栄を支え、かつその強さが国力を反映するという意味である。現代の日本では、「自動車は国家なり」という言葉が当てはまる。鉄鋼、化学、電機、情報、エネルギーなどのあらゆる産業と自動車は融合しており、将来的にも自動運転や燃料電池車などの新しい技術でもさまざまな産業と密接な関係を保っていくだろう。自動運転分野でグーグルと自動車メーカーが提携し始めているのは象徴的な動きだ。

 米国が20世紀に飛躍的な経済発展を遂げることができたのも、国内で産出する石油を使う自動車産業を発展させたことでさまざまな経済波及効果を生んだからである。だからこそ「GMは国家なり」という言葉も生まれた。しかし、米国の自動車メーカーはイノベーションを生み出すための経営努力を怠ったため、GMは倒産し、他メーカーも商品力で日本やドイツにかなわなくなった。幸いなことに日本の自動車メーカーは自助努力を重ねて、国際競争力を有し、国内での雇用創出に貢献する数少ない産業となっている。国益に貢献している産業である。

 しかし、その日本の自動車産業がいま、中国でピンチに立たされている。尖閣国有化問題後、中国では反日デモで日本車が破壊されたことなどで販売が激減した。自助努力でサービス向上や新車投入を行って昨年半ばから回復し、2013年は日産自動車、トヨタ自動車、本田技研工業(ホンダ)の日本の大手3社は過去最高の販売台数を記録したが、大きな課題を内包しているのだ。

 その課題とは中小企業の海外展開だ。日本車の高品質さを陰で支えている中小下請け部品メーカーも中国への積極的な進出を計画していたのに、「政治リスク」を理由に投資が滞ってしまっている。いくらトヨタや日産の技術力が高くても、下請けが現地で一緒にモノを造ってくれない限り、日本車の高品質さは担保できない構図になっている。ここでいう下請けとはデンソーやアイシン精機などの大手部品メーカーではなく、イメージとして従業員100人程度の中小零細企業のことである。こうした中小零細企業も、海外展開しなければ国内での仕事だけでは飯が食えない時代が来ている。

 特に中国の自動車市場の成長は著しい。13年は前年比13.9%増加の2198万台を売った。近く3000万台は超えるだろう。09年に米国を追い越して以来、世界1位の座をキープしている。市場構造は、貧富の差が拡大している経済構造を反映して高級車とエントリーカーが売れる傾向にある。首都北京では優に100を超えるブランドがしのぎを削っている。

●ASEANの規模では中国市場を補うことはできない

 日本の報道では意識的に中国の景気減速が指摘され、悪い面だけが取り上げられる傾向がある。筆者は年に何回か中国に出向いて取材しており、昨年も上海、南京、蘇州、常熟、丹陽などを訪問したが、賃金の上昇を背景に消費は伸びており、個人消費の中では最も高価な部類に入る自動車販売も絶好調だ。上海や北京などの沿海部は飽和状態でも、内陸には車を求める消費者がまだまだ埋もれている。環境やエネルギーの問題はあるものの、中国市場の成長性はまだ高い。この市場で負ければ、世界の競争から劣後しかねない。そうなれば、自動車は日本の基幹産業ではいられなくなる可能性もある。

 世界のトップ市場において競争で後退していくことは、産業としての国際競争力を失うことを意味する。13年の世界の自動車販売は約8300万台。世界の車の4台に1台が中国製ということになる。中国市場の嗜好が商品づくりに大きな影響を与えてくるだろう。「反中感情」を前面に押し出してASEANやロシアなどで稼げばいいという意見を言う人もいるが、こうした人は産業のことをまったく知らない人といってもいい。例えば、ASEAN6カ国の自動車販売は350万台で、中国の6分の1にも満たない。国ごとに法規や言語が違い、複雑な対応も必要となり、中国市場を補えるものではない。明確な根拠のない感情論で産業を論じれば、国際競争に劣後し、結局はそれが雇用や賃金などに跳ね返ってくるのだ。

 13年の中国自動車市場におけるメーカー別販売順位は、1位:独VW(前年比14%増の320万台)、2位:米GM(同11%増の316万台)、3位:韓国・現代自動車(同16%増の161万台)、4位:日産(同17%増の126万台)、5位米フォード(同49%増の93万台)、6位:トヨタ(同9%増の91万台)、7位:ホンダ(同26%増の75万台)である。

 フォードがトヨタを追い越して5位に浮上した。上位メーカーでは最も高い伸び率だが、「日本車を買うと壊されますよ」キャンペーンを展開して、日本車の顧客を奪い取ったと言われている。数字を見てもわかるように、世界で1、2位を争っているトヨタですら、VWやGMの3分の1にも満たない。日本勢は挽回したといっても、競合メーカーもそれを上回る程度の勢いで販売を伸ばしているからだ。

 特にGMやフォードは、価格が6万元(約102万円)程度のエントリーカーで台数を稼いでいる。そして、部品調達などの面で「規模の経済」のメリットも享受してコスト競争力を強めている。追い上げたいトヨタはやっと昨年12月、「ヤリス」をモデルチェンジして、廉価版を中国で初となる7万元を切る6万9000元という価格とした。日本車が欧米勢に押されている要因のひとつは、欧米の競合車と同じグレードであっても価格が20~30%程度高いからだ。そのまた要因は、現地での安くて品質の良い部品調達力の低さにある。

●自動車メーカーの競争力を低下させる政治リスク

 こうした課題をクリアしようと中小零細の部品メーカーに中国に進出してもらう動きが加速していた矢先に、尖閣問題が発生したことで、「政治リスク」に耐えられるほどの情報収集力と資金力がない中小零細は進出を取りやめるところも目立ち始めている。この結果、日本車の競争力が低下するリスクを大きく孕んでいる。

 特に安倍晋三首相の靖国参拝は、中国では目立った反日暴動などは起きていないが、日本の中小零細企業が中国への投資からさらに腰を引く心理的な要因となっている。日中関係が悪化して、さらにカントリーリスクが高まると判断する結果になっているという意味だ。

 筆者が昨年11月末に訪問した江蘇省丹陽では、日中の政治関係の険悪化がビジネスに悪影響を及ぼしている現場を見た。丹陽は、上海から新幹線で1時間半、西に約200キロ進んだところにある。揚子江中下流域の南岸に位置し、樹脂メガネレンズや合板の世界最大級の産地としても知られる。

 そこでトヨタOBの東和男氏(66)が「東龍日聯(丹陽)企業管理有限公司」を運営している。2年前、自動車産業に長くかかわってきた東氏が自身の経験に基づく問題意識から、退職金と貯金をなげうってベンチャーとして創業した。東氏は中国駐在歴20年で、「中国の自動車産業を最もよく知る日本人」と評価されている。

 業務の内容は、日本の中小零細部品メーカーなどを誘致する工業団地を運営することだ。インキュベーション(孵化)施設のような位置づけで、入会金500万円を払って6年間の入居契約を結べば、3年間家賃は無料で、4年目以降から市価の3分の1程度の家賃で入居できる。入会金は一部を運用して、その利益を配当する。脱会時には第一期入居組には全額返金、第二期入居組には半額返金する。無駄な設備投資を避けるために入居企業がお互いに機械を貸し借りできるように運営管理会社が仲介する。互助会組織のような機能も持つ。さらに、現地従業員の採用、流通、会計、法務なども運営管理会社が有料で代行し、販売先を紹介するケースもある。進出企業はもの造りに特化すればいいシステムを採用しているのが最大の特長だ。丹陽市の協力も得て、経営体力の弱い中小下請け向きに東氏が運営を工夫している。

 尖閣問題前までは、入居企業募集のために東氏が帰国して地方の商工会議所などで講演すれば数百人近くが集まっていたのが、尖閣問題後は閑古鳥が鳴いているという。「一期工事が終わって24社入居しているが、さらに27社が入る予定だったのが4社に激減した。日中間に横たわる政治リスクを恐れて投資に腰が引けている状態。中国は今も自動車産業が絶好調でビジネス拡大のチャンスが大きいのに残念」と東氏は話す。

●安全保障の要は敵をつくることでなく、少なくすること

 こうしたことが積み重なって、日本の自動車産業は中国で競争力を失うリスクが高まっていくのだ。

 このような指摘をすれば、「車屋のために中国に媚を売れというのか」といったようなご批判をいただく。しかし、冷静に考えれば、自動車産業は日本の「得意芸」であり、国益を象徴するような産業である。例えばトヨタが赤字になれば豊田市は税収が90%以上も落ち込む。同様に自動車産業が集積する愛知県や九州、東北も財源不足となる。ひいては、自治体の乳幼児医療で負担を軽減する特典なども維持できなくなる。国民が経済的にもかつ精神的にも豊かに暮らせることこそが国益ではないか。しかし、その国益を声高に主張して、結果として反中を煽ることに加担している政治家や財界人が、中国との関係を悪化させ、真の国益を崩していると筆者は強く感じる。

 また、安全保障の問題を掲げ、中国リスクを指摘する声もあるが、安全保障の要は、敵を少なくすることではないか。そのための外交力である。今の安倍政権は、外交力のなさを棚上げにして、中国との関係を悪化させ、国益を崩している。

 有権者はもっと自分の目で確かめたり調べたりして、現実を直視し、データを収集した上で、中国との関係をどうすればよいのか判断すべきである。ニュースソースがどこにあるのかもわからないようなネット上の情報や記事を鵜呑みにしてはいけない。
(文=井上久男/ジャーナリスト)

BusinessJournal編集部

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