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グーグル、世界を支配する日?マップ+グラス+人工知能と全情報デジタル化で目指す未来

文=池田冬彦/ライター
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グーグル、世界を支配する日?マップ+グラス+人工知能と全情報デジタル化で目指す未来の画像1シリコンバレーのGoogle本社

 Googleといえば、Web検索サービスを開発した企業というイメージが強い。しかし、いまやGoogleが単なる検索サービス会社ではないことはもう、説明の必要もないだろう。

 現在Googleは、メールやブログ、写真、動画など、あらゆるWebサービスを提供している。そして、2008年にはついに携帯電話事業に参入してAndroid携帯を提供。これをベースとし、今年1月にはGoogle と自動車メーカー4社、NVIDIAが共同で、Android搭載自動車開発を目指す業界団体「Open Automotive Alliance」を設立させた。

 一体、Googleはどのような野望を持ち、どこへ向かおうとしてるのだろうか?

どんなベンチャー企業にも似ていない、Googleの独自性とは?

 そもそも、Googleが検索サービスの分野で他の追従を許さないほどの存在になったのは、その検索アルゴリズムが画期的なものだったからだ。インターネット黎明期の1980年代頃、検索キーワードを入れると、膨大な秩序なき情報が大量にリストアップされ、その中から欲しい情報を探すのは至難の業だった。

 その問題を独創的な発想で解決したのは、Google創設者の1人、ラリー・ペイジ氏だった。彼が考案したページランクという理論は、世界中のWebページを「格付け」し、そのスコアが上位であるページが優先的に検索結果に表示されるというものだ。その根拠は、他のページからより多くリンク(引用)されていることや、ページランクの高いページからリンクされていることなどだ。

 Googleは、検索エンジンの覇者となったが、それで満足したわけではなく、実はすべての始まりだった。当時は「クラウド」という言葉すらなかったが、Googleがすでに90年代に次々と展開してきた各種サービスは、まさに今日のクラウドへの布石だった。

 Googleは、独創的で誰も考えたことのない理論や技術を研究・開発することを何よりも重視した。誰も考えつかなかったページランクという強力な武器に甘んじることなく、新たなページランク並みのインパクトを持つ理論とそれを実現する技術力を必要としていた。

 現在は、以前ほど騒がれなくなってしまった(すでになくなったとの情報もある)が、社員に対して社内で過ごす時間の20%を担当外の業務に使うことを義務づける「20%ルール」というものが、Googleを理解する上で重要なポイントだ。

これまでGooogleが生み出してきたものとは?

 Googleが提供するサービスは膨大で、ほとんどのWebサービスを網羅している。動画共有、ドキュメント共有、写真共有サービスのPicasa、オンラインストレージサービス、翻訳、ブログサービス、クラウドプリントなど、1つのGoogleアカウントがあれば、たいていのことはできてしまう。また、WebブラウザのGoogle Chromeや地球上の地理情報ブラウザ、Google Earthなどのアプリ開発も行っている。

 だが、Googleの凄さは、単に豊富なサービスを提供していることではない。普通の企業やベンチャーが真似できないようなサービスを提供し続けていること、さらには、それぞれのサービスが、機能面や使い勝手、安定性などのクオリティが高いものが多く、他の追従を許さないところにある。

 例えば、GmailやGoogle Maps、Street Viewなどを見ればすぐにわかるだろう。Gmailは電子メールの概念を根本的に変革した。メールの振り分けや他アカウントのPOPメールの統合機能、日本語に完全対応した高精度な迷惑メールフィルタ。どれをとっても、ISPのメールとは比べものにならないほど充実している。

 さらにGoogleの凄さを本当に実感できるのは、Google MapsとStreet Viewだ。地球上すべての地理情報をデータ化し、2D/3D、航空写真地図のみならず、地表の風景や地下施設、建物内などの実際の画像を無料で提供するという、Googleしかできないサービスを展開中だ。また、1月からはさらにリアリティの高い3D Earthビューサービスを開始している。

 なお、Street Viewの撮影は大都市を中心に、終わることなく続けられている。一般的な地表(道路)での車載カメラによる撮影は、特に変化の激しい都市部では定期的に続けられている。また、近年は主要な駅、地下街、大型商業施設をはじめ、ついに昨年には富士山のStreet Viewまで公開されるという、徹底した撮影を全世界で展開している。

 以前筆者は、地図会社であるゼンリンの元社員から、地図づくりがいかに大変かを聞いたことがあるが、Googleはそれを肖像権やプライバシーなどのリスクを冒してまで世界的に展開しているのだ。マイクロソフトのBingに続き、アップルも独自のマップを展開中だが、現状ではGoogleにはかなわない。

グーグル、世界を支配する日?マップ+グラス+人工知能と全情報デジタル化で目指す未来の画像2新しいGoogle Mapsで航空写真にして拡大すると、立体的な3D画像に切り替わる。現在は東京都、川崎市、千葉市、仙台市など、大都市のみ対応している

ようやく見えてきた、Googleの世界制覇(?)へのシナリオ

 まだまだGoogleには謎が多いが、Googleが目指している世界観というものが、ここ数年で次第に明らかになってきた。その最も大きな出来事は、Androidによるスマートフォン事業への参入である。もっと厳密に言えば、Androidスマートフォンのその先にあるIT技術による覇権という未来を実現するための重要なスタートラインなのだ。

 そのためにGoogleが必要だったのが、スマートフォン事業への参入だった。しかし、Googleはメーカーとしてのリソースも実績もなく、スマートフォンを市場に展開するのは難しかった。

 GoogleのCEOだったエリック・シュミットがiPhoneを開発したアップル創業者のスティーブ・ジョブズにAndroidの計画を隠したまま近づき、ついにはアップルの顧問となってiPhoneにまつわるさまざまな情報を得たことは有名だ。

 当時のAP通信によるとジョブズはAndroid開発の事実を知り、エリック・シュミットに「我々のアイデアを使うのはやめろ。Androidは核攻撃をしてでも潰してやる」と激怒して語り、Googleへの対策に迫られたという。当時、ジョブズはがんを宣告されていたが、その手術や治療が遅れたのは、このことも原因の1つともいわれている。

 しかし、Googleには絶対にAndroidが必要だった。コンピュータを中心に音楽、映画などのコンテンツを楽しむ「IT生態系」の原点、アップルの「デジタルハブ構想」をiTunes StoreとiPodで実現し、今やiPhoneの発明によって巨大なエコシステムが構築されたように、Googleの目指す未来にはAndroidがある。

 その1つがAndroid OSで動作するGoogle Glassだ。これはメガネの形をしたヘッドマウントデバイスで、Googleサービス上で保存しているさまざまな情報を視界に映し出したり、逆にカメラで撮影・記録してGoogleサービス上で活用することもできる。

 筆者は、このデバイスが登場した時に、ようやく、なぜGoogleは2005年からGoogle MapsやSteet Viewに膨大な体力をかけていたのか理解できた。Google Glassには当然、Google MapsやSteet Viewの映像も表示できる。道に迷っても映像と文字情報で道案内してくれるし、目的地への道案内もしてくれる。音声認識機能を備えており、コマンドでさまざまな操作もできる。

 また、Googleは視線追跡による広告課金システムで特許を取得している。誰がどのようなものに興味を持っているかをトラッキングし、その商品に近づくと知らせたり自動的に広告が表示されるといった、デジタルサイネージの先を行くことも技術的には可能だ。また、自動車などの移動体のインテリジェント化(Open Automotive Alliance:先端的カーエレクトロニクスをAndroidで実現)、さらには、スマートシティ(IT技術で省資源化を図るインテリジェントシティ)の実現など、あらゆる可能性がある。

 Googleは、あらゆる全世界の情報をすべてデジタル化し、それをエコシステム戦略によって、さまざまなかたちで展開しようとしている。今後、数多くの企業とのアライアンスを促進してエコシステムをつくり、IT業界の主役になろうとしている。

 何年もかけて収集し続けてきた、ありとあらゆる膨大なGoogleのデジタルデータ。そこには、地理情報だけではない。これまで全世界の人々が検索、閲覧してきたWeb上の行動のトラッキングデータも、Google Appsを使う企業のITシステム上での活動データも、何もかもが含まれている。Googleはまるで、世界の情報すべてをデジタル化し、この世を支配しようとしているかのようだ。

脳に近いニューラルネットワーク

 それを裏付けるかのような、ショッキングなニュースが飛び込んできた。ITカルチャーマガジン「Wired」によると、1月26日にGoogleは、人工知能(AI)の新興企業、DeepMindを買収したことを明らかにし、「深層学習(Deep Learning)」というAI新分野の探究のための人材を雇い入れているという。

 この目的は一体何だろうか。Wiredのマーカス・オルフセン氏は1月29日付の同誌記事の中で、非常勤でGoogleで働くことになったDeepMindのジェフリー・ヒントン氏を紹介し、ヒントン氏とDeepMindは、見ているものや聴いているもの、触れているものが何であるかを教えられなくても、言語や言葉や物質世界を理解することができる「脳に近いニューラルネットワーク」の構築に取り組んでいることを紹介している(http://wired.jp/2014/01/29/google-buying-way-making-brain-irrelevant/)。

 Googleは、まるで機械が人間社会を支配するというサイバーパンクSF映画に登場するような「神」をつくろうとでもしているかのようだ。それがどんなかたちで登場するかはわからないが、少なくともGoogle Glassのその先にある「何か」が、そう遠くない未来に我々の前に姿を現すだろう。

 かつて、アップルを起業した若きジョブズが1984年に最初のコンピュータ、Macintoshを発表した時、研究所や大企業で使われていたIBMの大型コンピュータを人類を支配する独裁者に見立て、ジョージ・オーウェルのSF小説『1984』に登場する、世界を支配する独裁者と重ね合わせた伝説のCMを放送した。

 しかし今、人類の未来を握っているのはGoogleかもしれない。すでにGoogleはあなたのGmailの内容や交友関係に加え、あなたが何に興味を持ち、どんなものをどのくらい購入しているのかも把握している。たとえあなたがGoogleアカウントでログインしていなくても、Googleが個々人のネット上の行動をトラッキングしている可能性は否定できない。近い将来、Googleが恐ろしい「機械の独裁者(ビッグブラザー)」にならないことを祈るばかりだ。
(文=池田冬彦/ライター)

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