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サッカー大国ブラジル、なぜW杯自国開催反対の動き広がる?社会問題後回しで巨額税金投入

栗田シメイ/Sportswriters Cafe
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 ブラジル人は、試合結果はもちろんだが、試合内容にとてもシビアな視線を送る。10年のW杯南アフリカ大会時から批判を浴びている、組織力と守備に重きを置いた現代表のスタイルは、優勝候補筆頭の呼び声高い今大会でも、世界一目の肥えたブラジル国民から見れば魅惑的には映っていないのかもしれない。

●中流階級のサッカーに対する意識

 サッカー王国といっても、すべてのブラジル人が熱狂的なサッカーファンというわけではない。中流階級以上の家庭では、むしろ息子がサッカー選手を目指すことに反対する親も少なくない。ちなみに、現在イタリアのサッカーリーグ・セリエAのACミランでプレーをするカカなど一部例外はいるが、トッププレーヤーは、ブラジル国内に5000万人以上といわれる貧困層の出身者が大半を占める。

 ブラジル有数の名門クラブであるサンパウロFCのクラブ会員になって20年という、同市内の銀行に勤めるパウロさんは、「最近は、スタジアムに足を運んでまで見たいと思える選手が少なくなったと、仲間とよく話します。チケット価格の上昇や、日用品の深刻な物価上昇に加え、政治家の公約とかけ離れた一向に改善されない教育・医療問題。W杯は楽しみですが、その後の生活の不安が上回っています。莫大な税金を使ってW杯に向けた準備を行うことは、国民にとってどのような恩恵があるのでしょうか」と疑問を投げかける。

●中流階級による政府への抗議活動

 ブラジル情報サイト「MegaBrasil」編集長の麻生雅人氏は、昨年から続くデモ活動について、本質は中流階級の意識の変化が大きいと分析する。

「ブラジルでは、職種や目的別にさまざまなデモが頻繁に起こっており、昨年6月のコンフェデ杯の時期や、今年に入って3回行われているW杯反対を叫ぶデモも、基本的にはその中のひとつです。最終的な目的はワールドカップ反対ではなく、多額な予算をかける大会は“優先すべきではない予算配分先の象徴”としてやり玉に挙がっています。このデモの特徴は、中流階級を中心とした政府への抗議であることです。物価高を誘引する政策への批判や、これまでの積もりに積もった社会不公正への不満などが一気に噴出しているようです」

 W杯後の10月には、ブラジルの大統領選と州知事選が行われる。国民的英雄の元ブラジル代表サッカー選手で現下院議員、ロマーリオが「この国は腐敗しきっている」と述べたように、国民は怒りの矛先をどこに向けるべきか理解している。11年に大統領に就任したジルマ・ルセフ氏の政権に期待する声が集まっているが、W杯成功・選挙結果ともに鍵を握るのは、中流階級の人々の意識なのかもしれない。いずれにしても、W杯が市民の生活に大きな影響を及ぼすことは間違いなさそうだ。
(文=栗田シメイ/Sportswriters Cafe)

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